この作品は18歳未満の方の閲覧を禁止します。フィクションであり、現実の人物・事件とは一切関係ありません。
## 第1話:霧隠れのハーブ
地方の山奥、深い森の小道を、三十歳の私は二十八歳の義弟、悠人と並んで歩いていた。血のつながらない義弟──母の再婚で出会った彼とは、幼少期の記憶がぼんやりと重なる。十数年ぶりの再会だった。あの頃の淡い距離感が、今も私たちの間に薄い膜のように張りつめている。
平日、夕暮れの森は静かだった。霧が木々の間を這い、足元を湿らせ、街灯もない闇が徐々に忍び寄る。雨上がりの土の匂いが鼻腔をくすぐり、葉ずれの音だけが微かに響く。私たちは言葉少なに、ただ歩いていた。悠人の横顔を、時折、視線でなぞる。肩幅の広い背中、首筋に浮かぶ筋。二十八歳の男の体躯は、記憶より逞しくなっていた。
「この辺、変わってないな」
悠人がぽつりと呟く。声は低く、霧に溶けるように消えた。私は頷くだけ。幼い頃、母の連れ合いとなった彼の父と一緒に、この森を散策した記憶。血縁のない私たちは、互いに他人のような、家族のような、曖昧な距離を保っていた。あの頃の沈黙が、今も息づいている。
道は細くなり、苔むした岩が転がる。霧が濃くなり、視界を白く染める。私は足を止め、木の根元に目を留めた。珍しいハーブ──紫がかった葉、湿った空気に紛れてひっそりと群生している。指で摘み、鼻に近づける。甘く、かすかに刺激的な香り。
「これ、何?」
悠人が寄ってきて、肩がわずかに触れそうになる。距離を保ち、私は葉を口元へ。冗談めかして、笑みを浮かべる。
「媚薬、だって。森の奥に隠れてるんだよ、こんなの」
彼の目が、僅かに見開く。私は葉を噛み砕き、飲み込んだ。苦味が舌に広がり、喉を滑り落ちる。嘘みたいな話──地元の言い伝えで、こんなハーブが体を熱くする、なんて。笑い飛ばされるのを待ったのに、悠人は黙って私を見つめていた。視線が、首筋を這うように。
最初は、気のせいだった。内側から、じわりと熱が湧く。腹の底、胸の奥。霧の冷たさが肌を撫でるのに、対照的に、体温が上がる。息が、僅かに浅くなる。私は歩き出し、悠人も続く。沈黙が、森の空気を重くする。
木々が密集し、道はさらに狭まる。私の頰が、熱を持つ。服の下、肌が敏感に疼き始める。歩くたび、太腿の内側が擦れ、甘い違和感が広がる。視線を前方に固定しようとするのに、悠人の気配が、背後から濃くなる。足音が、息づかいが、近づく。
立ち止まり、木幹に手をつく。霧が頰を湿らせ、髪を張りつける。体内の熱は、波のように膨らみ、抑えきれぬ疼きを呼び起こす。下腹部が、甘く収縮する。息を吐き、振り返る。悠人の顔が、そこにあった。目が、わずかに揺れている。瞳の奥に、普段ない光。息の間が、長くなる。
彼の視線が、私の唇を、首を、胸元をなぞる。触れぬ距離で、熱が伝わる。私の肌が、震える。沈黙が、二人の間を濃く、粘つく糸のように繋ぐ。ハーブの効果か、それとも、この霧の森か。心の奥で、何かが、静かに解け始める。
悠人の喉が、僅かに動く。言葉はない。ただ、視線が絡み、息が重なる。体内の疼きが、頂点へ向かう予感。森の奥で、何が待つのか──。
(第2話へ続く)
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