この作品は18歳未満の方の閲覧を禁止します。フィクションであり、現実の人物・事件とは一切関係ありません。
## 第2話:膝先の這い寄り
浩介の膝が、僅かに動いた気がした。その瞬間、デスク下の空気が、指先で撫でられるように震える。私のヒールの先が、彼の脛に預けられたまま、微かな重みを伝えている。オフィスの時計が、十一時を過ぎた頃。外の街灯が窓ガラスに淡く滲み、空調の風がカーペットを優しく撫でる音だけが、途切れ途切れに響く。モニターの光が、私たちの輪郭をぼんやりと浮かび上がらせる。誰もいないフロアの静けさが、息を潜めてこの距離を見守っているようだ。
媚薬の熱が、足の裏から這い上がってくる。最初は喉の奥に溶けた水の余韻だったものが、今は肌の内側をゆっくりと巡り始める。ふくらはぎが、じんわりと火照る、膝の裏まで温かな波が届く。スカートの生地が、太ももに張り付くような感覚。息が、浅くなる。デスクの上で資料を睨むふりをしながら、視線を浩介に滑らせる。彼の眼鏡のレンズが、光を反射して私の姿を捉えている。逸らさない。互いの目が、絡みつく糸のように重なる。
キーボードの音が、再び止まる。浩介の指が、宙に浮いたまま。デスク下で、私の足が自然に動く。ヒールの先端が、脛から膝の方へ、僅かに這うように移る。尖った先が、スラックスの生地を軽く押す。固い筋肉の感触が、ヒール越しに伝わってくる。重みを預ける。意図せず、しかし抑えきれず。私の胸の奥が、熱く疼く。媚薬のせいだ。この内側から湧く渇望が、足を彼の膝に近づけさせる。触れた瞬間、浩介の膝が僅かに跳ねる。視線が、深くなる。
沈黙が、部屋を満たす。言葉はない。ただ、息の音が、互いの耳に響く。私のは少し速く、乱れ気味。彼のは、抑え込まれたように低く、途切れる。眼鏡の奥の瞳が、私の唇を、首筋を、ゆっくりと辿る。私の肌が、視線に撫でられるように熱を帯びる。デスク下のヒールが、膝の内側に寄り添う。重みが、増す。動かさない。動かせない。この距離が、甘く息苦しい。媚薬の波が、腰の辺りまで這い上がり、体全体を柔らかく溶かす。膝に跨がりたくなる衝動が、静かに膨らむ。
浩介の視線が、揺らぐ。一瞬、下へ落ち、デスク下を意識するように。だが、すぐに戻る。私を映す瞳に、僅かな戸惑いと、何か別の光が混じる。合意の予感か、それともただの好奇。血のつながりなどない、私たちの関係が、この沈黙の中で少しずつ変わり始めている。私の手が、デスクの上で指を絡め、緩める。自然に、ゆっくりと動く。資料を脇へ寄せ、右手が彼の膝の方へ伸びる。デスクの縁を越え、虚空を滑る。触れる直前で、ためらう。指先が震える。
息が、途切れる。浩介の胸が、僅かに上下する。彼の膝が、ヒールの重みに耐えるように固くなる。私の視線が、彼の唇を捉える。乾いた唇が、微かに開く。言葉を待つような、誘うような。沈黙が続き、部屋の空気が濃くなる。外の雨音が、ぽつぽつと窓を叩き始める。平日夜のオフィスに、二人だけの世界が閉じ込められる。私の手が、ついに彼の膝に届く。スラックスの生地の上に、掌を置く。温かい。固い。ヒールの先が、膝のすぐ下で支えるように寄り添う。
その感触に、体が震える。媚薬の熱が、指先から全身へ広がる。掌の下で、浩介の膝が微かに動く。拒否ではない。受け止めるような、応じるような動き。視線が、再び絡む。互いの瞳に、欲求の影が浮かぶ。私の息が、熱く漏れる。彼の息が、それに応じるように深くなる。手が膝に置かれたまま、動かない。重みを預ける。ヒールの先が、膝の内側を優しく押す。この触れ合いが、次の一歩を予感させる。体が、内側から疼き、抑えきれない熱が、沈黙の隙間を埋めていく。
浩介の指が、デスク上で僅かに握り締められる。私の掌が、膝の上で温もりを確かめるように、微かに滑る。言葉はない。ただ、視線の揺れと、息の乱れが、合意の糸を紡ぎ始める。媚薬の波が、頂点へ向かう予感。デスク下の距離が、溶け始めている。私の腰が、無意識に前へ傾く。膝上への渇望が、静かに加速する。
浩介の膝が、私の手の下で、熱く脈打った。
(第2話 終わり 第3話へ続く)