この作品は18歳未満の方の閲覧を禁止します。フィクションであり、現実の人物・事件とは一切関係ありません。
## 第2話:隣で積まれる資料の影
残業の灯りがスタジオの小部屋を淡く照らしていた。十時半を回った頃、廊下の足音は完全に途絶え、部屋の中には神崎が広げた資料のページをめくる音だけが残る。芦屋は隣の椅子に腰を据えたまま、彼女の動作を視界の端で捉えていた。黒いスーツの袖がわずかにまくれ、細い手首が露わになる。神崎は台本の横に積まれたリサーチ資料を、静かに順序立てて整理し始めていた。
彼女の体躯は相変わらず細く、胸元はスーツの布地に沿って平らに落ちている。ジャケットの前が軽く開いた瞬間、淡い影がそのラインをなぞるように落ちた。芦屋は視線を逸らさず、しかし感情を抑えた声で言った。
「三ページ目の数字は、昨日のデータと照合してほしい」
神崎は頷き、資料を一枚ずつめくった。指先がページの端を丁寧に揃える仕草は、慌ただしさとは無縁だった。平らな胸元が、腕を伸ばすたびにわずかに浮かび上がる。その動きは抑制されていて、余計な強調は一切ない。部屋の空調が弱く回る音が、二人の間の沈黙を際立たせた。
「芦屋さん、この部分の表現、報道寄りに直しましょうか」
神崎の声は低く、落ち着いている。二十八歳の落ち着きが、年齢差を静かに埋めるように響いた。芦屋は資料に目を落とし、隣からの熱を意識しながら答えた。
「そのままの調子でいい。君の読みで十分だ」
二人の距離は、台本を挟んで三十センチほど。神崎が体を少し前傾させると、平らな胸元が芦屋の視界に自然に入る。布地が張りつくように身体の線をなぞり、夜の静けさの中で妙に濃密に感じられた。彼女の吐息が資料のページに触れ、わずかに震える。芦屋はそれを聞き逃さず、視線を資料に戻した。感情を表に出さない習慣が、かえって空気を濃くしている。
神崎の手が、芦屋の隣に積まれた資料の山を丁寧に整理していった。指先がほとんど触れそうで触れない位置で止まる。彼女の仕草はすべて抑制されていて、しかしその分、心理的な緊張がじわじわと積み重なっていく。芦屋は六十を過ぎた体に染みる夜の冷えを感じながら、彼女の隣で静かに資料を確認し続けた。
窓の外では、街灯が淡い光を落としている。神崎の指が再びページをめくり、平らな胸元に影が落ちた。
(次話へ続く)