久我涼一

女上司の騎乗支配欲(第1話)

この作品は18歳未満の方の閲覧を禁止します。フィクションであり、現実の人物・事件とは一切関係ありません。

## 第1話:残業の夜、視線の揺らぎ

 オフィスの窓から見える夜景は、いつものように無機質な光の海を広げていた。平日遅く、ほとんどの社員が帰宅したフロアは、蛍光灯の淡い残光とエアコンの低いうなり声だけが響く。45歳の佐藤浩一は、デスクの山積みの資料に目を走らせながら、ため息を抑えた。部長の指示で残業が長引くのは珍しくないが、今夜は妙に空気が重い。

 隣の席で、美香部長がキーボードを叩く音が、静寂を優しく刻む。38歳の彼女は、入社以来の辣腕ぶりで部署を率いてきた。黒髪を後ろでまとめ、シャープなスーツが引き締まった体躯を際立たせる。浩一は3年前に彼女の下についた。仕事は厳しくも的確で、信頼は厚い。だが最近、ふとした瞬間に感じる視線の重みが、日常の端に影を落としていた。

 午後8時を過ぎ、浩一がコーヒーを淹れに給湯室へ向かうと、美香が先に立っていた。立ち上る湯気がポットからカップに注がれる黒い液体とともに、彼女の横顔を柔らかく照らす。

「佐藤さん、まだ少し残りそうね」

 落ち着いた声が、浩一の耳に染み入る。彼女はカップを差し出し、指先が軽く触れた。その感触は、事務的なもののはずなのに、なぜか肌に残る。

「ええ、部長。もう少しで片付きます」

 浩一は視線を逸らし、デスクに戻った。だが、背中に感じる視線が、資料の文字をぼやけさせる。美香の目は、いつもより深く、探るように浩一を捉えていた。会議中、報告書を渡す時、廊下ですれ違う瞬間――。それは仕事のプレッシャーか、それとも別の何かか。浩一は首を振った。長年の社会人生活で、人間関係の微妙な揺らぎを見てきた。だが、美香のそれは、抑えきれない好奇心をかき立てる。

 10時近く、フロアの照明がさらに落とされ、二人は最後の資料をまとめていた。美香が立ち上がり、浩一の肩に手を置く。

「佐藤さん、今日はよく頑張ったわ。少し休憩しない?」

 彼女の指が、肩越しに首筋をなぞるように滑る。浩一の体が、わずかに震えた。仕事の疲れか、それともこの距離感か。美香の吐息が、耳元に近づく。

「私の下で、震えてごらん」

 囁きは、静かなオフィスに溶け込むように低く、しかし確かな熱を帯びていた。浩一の心臓が、激しく鳴る。冗談か、幻聴か。だが、美香の目は真剣で、唇の端に微かな微笑が浮かぶ。彼女は血縁など一切ない、ただの女上司。浩一より7歳若いのに、その視線は彼を支配するような力強さがあった。

「部長……それは」

 言葉が詰まる。浩一は立ち上がり、彼女の顔をまじまじと見つめた。美香は静かに頷き、バッグを肩に掛ける。

「私の家で、続きを話しましょう。車で送るわ」

 拒否の言葉は、出なかった。好奇心が、胸の奥で膨らむ。長年、妻との平凡な日常を繰り返し、仕事に没頭してきた浩一にとって、この提案はありふれたルールから逸脱する誘惑だった。責任ある立場、部署の信頼――それらが頭をよぎるが、美香の視線に抗えない。車中、夜の街灯が窓を滑る中、二人はほとんど言葉を交わさなかった。ただ、彼女の横顔が、浩一の視界を支配する。

 美香のマンションは、都心の静かな一角にあった。エレベーターが止まり、ドアの前に立つ。鍵が回る音が、夜の静寂に響く。ドアが開くと、甘い香りが浩一を包み込んだ。ジャスミンのような、微かにワインのニュアンスを帯びた空気。室内の灯りが柔らかく漏れ、リビングのソファが二人を待つように佇む。

 美香が振り返り、浩一の手を優しく引く。その指の温もりが、抑えきれない疼きを呼び起こす。ドアが静かに閉まる音が、日常の終わりを告げていた。

(第2話へ続く)

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