芦屋恒一

義娘の吐息が肌を焦がす(第2話)

この作品は18歳未満の方の閲覧を禁止します。フィクションであり、現実の人物・事件とは一切関係ありません。

## 第2話:洗濯物の残り香と台所の吐息

 あの夜の遥の息づかいが、耳の奥に残っていた。朝の光がカーテンを透かし、平日の静かな家で目覚める。私はベッドから起き上がり、コーヒーの香りを確かめながら、昨夜の熱を振り払おうとした。だが、体は正直だ。五十代後半の肌が、微かな疼きを覚えている。抑制の糸を、再び固く結び直す。遥は義娘。血のつながりはないが、この家で共に暮らす者同士。妻の不在が続く今、軽率な思いは許されない。

 台所で朝食を済ませた。遥の部屋のドアはまだ閉まっていた。彼女の仕事は私より遅い出社だ。私は洗濯機のスイッチを入れ、昨日の衣類を放り込んだ。妻のもの、私のもの、そして遥の。黒いスカート、白いブラウス。触れるのを避けようとしたが、指先が自然にそれらに絡まる。布地に残る匂い。汗と香水の混合した、あの甘い残り香が、鮮やかに蘇る。鼻を寄せると、麝香のような深みが増していた。仕事の熱気と、彼女の体温が染み込んだ湿り気。指を這わせるだけで、布の皺が柔らかく沈み、想像が膨らむ。遥の首筋、鎖骨のライン。昨夜の息づかいが、重なる。

 私は手を止め、深く息を吐いた。こんな行為は、理性の隙間を広げるだけだ。洗濯物を干し終え、リビングに戻る。窓外は曇天で、街の喧騒が遠い。平日の昼下がりは、こんな静けさが普通のはずだった。だが、今は違う。遥の匂いが、家中に染みついている。空気が甘く、重い。

 午後、遥が帰宅したのは早めだった。玄関の鍵が回り、疲れた足音が響く。「ただいま、お義父さん。今日は少し早く上がれました」。彼女の声は、昨日より少し低く、息が混じる。私は新聞を畳み、立ち上がった。「おかえり。昼飯は?」。遥はバッグを置き、首を振る。「社食で済ませました。でも、喉が渇いて…」。彼女はキッチンへ向かい、冷蔵庫を開けた。白いブラウスが汗で張り付き、背中のラインが浮かぶ。今日もあの匂いが、漂い始めた。香水の花ノートに、汗の塩辛さが濃く絡む。

 台所で水を飲む彼女の横に、私は自然に立った。夕食の下ごしらえのためだ。鍋に野菜を入れ、火にかける。狭いスペースで、肩が触れ合う。遥の体温が、布越しに伝わる。熱い。彼女はグラスを置き、シンクで手を洗った。水音が響き、滴が彼女の指先を伝う。透明な液体が、ゆっくりと落ちる。その仕草に、昨夜の吐息が蘇る。私は包丁を握り、玉ねぎを切った。だが、視線が彼女の唇に奪われる。わずかに開き、湿った光沢がある。唾液の気配が、甘く匂う。

「お義父さん、手伝います」

 遥が近づき、私の横に並んだ。肩が触れ、互いの息が混ざる。彼女の吐息は温かく、甘い。汗と香水の残り香が、鼻腔を満たす。私は「いいよ、一人で」と答えたが、声が少し掠れた。彼女は笑い、野菜を手に取る。指先が私の手に触れ、電流のような震えが走る。台所の空気が、熱を帯び始めた。火の音、息づかい、布ずれ。すべてが密やかだ。

 作業が進む中、遥の息が速くなる。額に汗が浮かび、首筋を伝う。私は無意識に、それを視線で追った。彼女の匂いが濃密に立ち上る。汗の湿り気、香水の甘さ、そして微かな体臭。熟れた果実を思わせる、抑えきれない深み。私は包丁を置き、彼女の顔を見た。瞳が近い。茶色の奥に、揺らぎがある。「暑いですね…」。遥の声は囁きのように低く、唇が湿る。透明な唾液が、わずかに滴る気配。飲み込む動作で、喉が小さく動いた。その瞬間、互いの吐息が絡み合う。甘く、熱い。

 距離が縮まる。肩から腕へ、触れ合いが続く。私は理性で抑えようとしたが、体が動く。遥の唇が、近づく。息が混ざり、唾液の湿った香りが漂う。彼女の瞳に、渇望の影。血のつながりのない私たち。家族の枠を超えそうな、熱い緊張。「遥…」。私の声は低く、震えた。彼女は目を伏せ、唇を寄せる。柔らかな感触が、寸前で止まる。吐息だけが、肌を焦がす。唾液の滴が、想像の中で絡みつく。

 夕食の支度を終え、食卓に着いた。言葉は少ない。だが、空気は違う。遥の視線が、私の唇を掠める。箸を動かす手が、わずかに震える。彼女の息が、テーブル越しに届く。甘い、湿ったそれ。汗の残り香が、部屋を満たす。私は水を飲み、熱を抑えた。だが、心の奥で、抑制の糸がさらにほつれる。食後、遥は皿を洗う私に寄り添った。背中が触れ、匂いが濃くなる。「お義父さん、ありがとう」。彼女の声に、微かな喘ぎのような響き。吐息が、耳元で熱く漏れる。

 夜が深まる。リビングで酒を傾けながら、遥は隣に座った。距離が近い。彼女の膝が、私の腿に触れそうで触れない。グラスを置く仕草で、唇が光る。唾液の余韻が、匂う。会話は日常のこと。仕事、妻の帰宅予定。だが、言葉の隙間に、息づかいが混じる。遥の胸が、わずかに上下する。汗ばんだ首筋から、香りが漂う。私は目を逸らした。だが、体は反応する。股間の熱が、疼く。

 遥が立ち上がり、自室へ向かう。ドアが閉まる音。静寂が訪れる。私はソファに沈み、目を閉じた。鼻腔に残るのは、台所の吐息と、洗濯物の残り香。互いの熱が、肌に染みつく。隣室から、再び微かな音。息づかいが、少し乱れている。抑えきれない渇望が、壁越しに伝わる。今夜、耐えられるのか。次は、一線を越えるのかもしれない。

(第3話へ続く)