藤堂志乃

楽屋の視線が絡む唇の渇望(第1話)

この作品は18歳未満の方の閲覧を禁止します。フィクションであり、現実の人物・事件とは一切関係ありません。

## 第1話:〈ストッキングに囚われる視線〉

 ライブの余韻がまだ空気に溶け込んでいる楽屋は、夜の帳が降りた街の喧騒を遠くに押しやるように静かだった。照明の柔らかな光が壁に淡く反射し、鏡台の前に座る彩花の姿を浮かび上がらせる。25歳の彼女は、人気アイドルとしてステージを駆け抜けたばかりだ。汗に濡れた肌が、照明の下でかすかに光り、息が少しずつ整っていく。

 私は40歳のマネージャーとして、今日も彼女の傍らに控えていた。楽屋の扉を閉め、二人きりの空間を確保した。外の廊下から聞こえるスタッフの足音が遠ざかり、ようやく沈黙が訪れた。彩花はソファに深く腰を沈め、脚を組んだ。黒いストッキングに包まれたその脚線が、照明の陰影を借りて、滑らかに弧を描いていた。細く引き締まったふくらはぎから、膝の丸みを帯びた曲線へ、そして太ももの内側へと視線が自然に落ちる。

 私はタオルとドリンクを手に近づきながら、視線を逸らそうとした。だが、無理だった。ストッキングの薄い膜が、彼女の肌の温もりを透かして伝わってくるようで、心臓の鼓動がわずかに速まった。彩花は気づいているのか、気づいていないのか。鏡に向かって軽く首を傾け、メイクを拭き取る仕草をした。その間も、脚は微動だにせず、私の視界を支配していた。

 沈黙が、重くのしかかる。楽屋の空気は、ライブの熱気を帯びたまま冷めやらぬ。彼女の息づかいが、かすかに聞こえた。ゆっくりと、深く。私の息も、それに呼応するように乱れ始めた。視線を上げると、鏡越しに彩花の瞳とぶつかった。黒い瞳の奥に、何か揺らめくものがある。ステージ上の輝きとは違う、秘められた熱。言葉にしないまま、私の胸の奥で何かが疼き始める。

 これまで、数えきれないほどのライブを共に過ごしてきた。彩花がデビューして10年、私は彼女の影のように寄り添い、支えてきた。プロフェッショナルな関係。それだけのはずだった。だが今、この瞬間、ストッキングの光沢が私の視界を狭め、理性の端を溶かす。脚のラインをなぞるように、視線が這う。肌の感触を想像するだけで、喉が渇く。抑えきれない疼きが、心の底から湧き上がる。

 彩花の唇が、微かに動いた。言葉を発するわけではない。ただ、湿らせるように舌先が触れ、薄く光る。息を吐くたび、唇の端がわずかに震える。その仕草に、胸がざわつく。彼女の瞳はまだ私を捉えたまま、深く沈むように見つめ返す。沈黙の中で、互いの息が絡みつく。楽屋の空気が、熱を帯びていく。

 この視線が、どこへ導くのか。心の奥で、抑えていた何かが、静かに目覚めようとしていた。

(第1話 終わり)

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