如月澪

浮気相手のタトゥーに囚わる妻(第1話)

この作品は18歳未満の方の閲覧を禁止します。フィクションであり、現実の人物・事件とは一切関係ありません。

## 第1話:スマホの秘密と街角の視線

 平日の夕暮れ、彩花はいつものように夫の帰りを待っていた。28歳の主婦生活は、穏やかで予測可能なものだった。朝のコーヒーの香り、洗濯物の柔らかな感触、窓辺に差し込む柔らかな光。夫の浩太とは結婚して5年、互いの仕事の疲れを労い合う日常が、心地よいリズムを刻んでいた。

 その日、浩太がシャワーを浴びている隙に、テーブルの上に置き忘れたスマホが目に入った。普段は触らない。信頼しているからこそ。でも、何気なく画面をスワイプした瞬間、心臓が止まるような衝撃が走った。メッセージアプリに並ぶ、知らない女性とのやり取り。親密な言葉、夜遅くの逢瀬の約束。そして、添付された写真。

 その女性は、25歳の浩太の会社の後輩、遥だった。プロフィール写真から推測した名前が一致した。写真の中で遥は、薄手のブラウスをはだけさせ、背中をこちらに向けていた。豊かな胸の谷間が柔らかく影を落とし、その下から覗く肌に、妖艶なタトゥーが浮かび上がっていた。黒いインクが絡みつくような花の模様が、しなやかな曲線をなぞるように広がっている。彩花の指が震えた。浩太の浮気相手。それが、こんなにも鮮やかに、肌に刻まれた証のようにそこにあった。

 スマホを置いた瞬間、胸にぽっかりと空いた穴が広がった。怒りか、悲しみか、それとも好奇心か。自分でもわからない感情が、静かに渦を巻き始めた。浩太には何も言わなかった。ただ、夕食の席でいつもより少しだけ、視線を逸らした。

 それから数日後の平日、雨上がりの街を歩いていた。買い物の帰り道、街灯の光が夕暮れの空を淡く染め、濡れたアスファルトが足音を優しく吸い込む。28歳の彩花は、近所のスーパーで食材を買い、帰宅途中の路地を抜けようとしていた。都会の喧騒は遠く、静かな住宅街の路地裏は、大人たちの足音だけが響く時間帯だ。

 ふと、前方から歩いてくる女性に目が留まった。黒いコートを羽織った、細身のシルエット。肩まで伸びた髪が風に揺れ、歩くたびにコートの裾が軽くめくれ上がる。彩花の足が止まった。あの写真の女性。遥だ。間違いない。背中のタトゥーが、記憶に焼き付いていた。

 遥も彩花に気づいたようだった。足を止め、わずかに首を傾げる。雨上がりの湿った空気が、二人の間に漂う。彩花の心臓が早鐘のように鳴った。逃げ出すべきか、それとも……。

「すみません、どこかでお会いしたことありますか?」

 遥の声は柔らかく、低いトーンで響いた。25歳とは思えない落ち着き。彩花はごくりと喉を鳴らし、ゆっくりと頷いた。

「ええ、たぶん……。浩太の奥さん、ですよね。私、遥です。彼の会社の後輩で」

 遥の唇が優しく弧を描く。彩花は言葉を探した。夫の名前を出された瞬間、胸がざわついた。でも、遥の目は穏やかで、敵意など微塵も感じさせない。むしろ、興味深げに彩花の顔を覗き込むように。

「そう、彩花です。こんなところで会うなんて、奇遇ですね」

 二人は自然と立ち話を始めた。路地の街灯が柔らかな光を落とし、遠くで車のエンジン音が低く響く。遥はコートを少し緩め、胸元を露わにした。豊かな胸の膨らみが、布地を優しく押し上げている。その谷間に、わずかに肌が覗き、タトゥーの端が影のようにちらりと見えた。黒い花弁が、息づくように曲線を描く。彩花の視線が、そこに絡みつくのを止められなかった。

 遥は気づいていたのかもしれない。微笑みを深め、軽く肩をすくめてみせる。

「この辺、よく歩くんですか? 私も仕事帰りに寄り道してて。雨上がりの空気、好きなんですよね。静かで」

 互いの日常が、ぽつぽつと語られ始めた。彩花は主婦のルーチンを、遥は会社の忙しさを。浩太の話題は避けられたが、自然と仕事の愚痴が混じる。遥の声は穏やかで、時折笑うと胸元が微かに揺れた。タトゥーの模様が、布地の隙間から誘うように覗く。彩花の頰が、わずかに熱を持った。なぜだろう。この女性の存在が、夫の裏切りを思い起こさせるはずなのに、視線を逸らせない。柔らかな曲線、肌の白さが、夕暮れの光に溶け込むように美しい。

「浩太さん、最近忙しそうですね。奥さん、大変じゃないですか?」

 遥の言葉に、彩花は小さく頷いた。心の中で、スマホの写真がよぎる。でも、遥の目は純粋で、熱を帯びていた。まるで、彩花の内側を優しく探るように。

「まあ、普通ですよ。あなたこそ、後輩として大変でしょう?」

 会話が弾むうちに、遥がスマホを取り出した。

「よかったら、連絡先交換しませんか? またお話ししたいなって。こんな偶然、ないですから」

 彩花の指が、迷いながらも画面に触れた。LINEのQRコードが読み込まれ、互いの名前が登録される。遥のプロフィール写真は、シンプルな笑顔だった。でも、彩花の頭には、あの背中の模様が鮮やかによみがえる。

 別れ際、遥が一歩近づき、熱い視線を注いだ。胸元の柔らかな膨らみが、わずかに彩花の腕に触れそうになる。息が、かすかに混じり合う距離。

「また会いましょう、彩花さん。楽しみにしてます」

 遥の声が、耳元で甘く響いた。彩花の心が、静かにざわついた。夫の浮気相手のはずの女性の視線が、なぜか肌を焦がすように熱い。路地を去る遥の背中を、彩花は見送った。タトゥーの記憶が、胸の奥で疼き始める。

 家に帰っても、その視線が離れない。次に会う約束の言葉が、日常の隙間に忍び込み、甘い予感を運んでくる。遥の柔らかな胸元と、覗く肌の模様が、彩花の夜を静かに彩り始めた。

(約1950字)

次話へ続く──遥との再会が、彩花の心をさらに揺さぶる。