緋雨

剃毛の余韻、近づく肌の熱(第2話)

この作品は18歳未満の方の閲覧を禁止します。フィクションであり、現実の人物・事件とは一切関係ありません。

## 第2話:アトリエの刃、滑る指先の余熱

 雨音が、窓辺で途切れず響いていた。夜の十時を回った頃。緋雨のアトリエは、アパートの奥まった一室。原稿用紙が散らばり、机のランプが淡い光を落とす。静けさが、息苦しいほどに濃い。悠の頷きから、わずか三十分。言葉は交わさず、二人は台所を後にした。足音が廊下を滑るように進み、アトリエの扉が開く。悠が入り、緋雨が後ろから鍵をかける音。カチリと、空間が閉ざされる。

 悠は部屋の中央に置かれた木製の椅子に腰を下ろす。背もたれに体を預け、シャツのボタンを外し始める。指先がゆっくりと動き、一つ、また一つ。緋雨は棚から道具を取り出す。剃刀、クリーム、温めたタオル。動作は無駄なく、視線を悠に固定したまま。悠の胸元が露わになる。黒い体毛が、薄暗い光の下で柔らかく影を落とす。呼吸が、僅かに深くなる。

 緋雨は椅子に近づく。膝を折り、悠の前にしゃがむ。距離が、息づかいの近さになる。悠の視線が上から落ち、緋雨の顔を捉える。沈黙が、空気を震わせる。緋雨の指が、温めたタオルの湯気で湿らせ、悠の胸に当てる。蒸気が立ち上り、体毛を柔らかく濡らす。悠の喉が、微かに鳴る。肌が、熱を帯び始める気配。

「動かないで」

 緋雨の声は囁きに近い。命令ではなく、触れる前の約束。悠の瞳が、僅かに細まる。頷きはない。ただ、体が静止する。緋雨はクリームを指先に取り、胸元の体毛に塗り広げる。白い泡が、肌を覆う。指の腹が、ゆっくりと円を描く。体毛の抵抗が、柔らかく指に絡みつく。悠の息が、わずかに途切れる。胸が、上下に微かに揺れる。

 剃刀を手に取る。刃の冷たい光沢が、ランプに反射する。緋雨は息を止め、刃を肌に当てる。一刃目が、胸の中央を滑る。シュッという微かな音。体毛が、泡と共に剃り落とされる。つるりとした肌が、現れる。緋雨の視線が、そこに落ちる。滑らかな光沢。指で確かめたい衝動が、内面を疼かせる。悠の息が、熱く吐き出される。刃の感触が、肌の下で震えを呼ぶようだ。

 二刃目、三刃目。緋雨の指が、剃った肌を拭う。タオルが滑る感触。つるぺたの胸元が、広がる。鎖骨のラインが、くっきりと浮かび上がる。悠の視線が、緋雨の指先を追う。絡みつくように。緋雨は目を上げ、悠の瞳とぶつかる。沈黙が、甘く張りつめる。指が、剃り残しの体毛を探り、胸の輪郭をなぞる。肌の熱が、指先に伝わる。悠の心臓の鼓動が、指の下面で脈打つ。

 雨音が、遠くに聞こえる。室内の空気が、重く湿る。緋雨はクリームを追加し、胸の下側へ刃を進める。体毛の密集した部分。刃が慎重に滑る。シュッ、シュッ。剃り落とされる感触が、二人の間に響く。悠の息が、微かに乱れ始める。吐息が、緋雨の髪を揺らすほど近い。つるりとした肌が、腹部の上端まで広がる。光が、肌を艶やかに照らす。緋雨の指が、そこを拭い、確かめるように撫でる。滑らかさ。熱の層。

 悠の指が、椅子の肘掛けを握る。白く、力が入る気配。視線が、緋雨の唇へ落ちる。乾いた唇が、僅かに湿る。緋雨は気づき、舌で唇をなめる仕草。悠の瞳が、揺れる。刃を止めて、タオルで全体を拭う。つるぺたの胸元が、完全に露わ。以前のざらつきは消え、肌の素の感触だけが残る。緋雨の視線が、ゆっくりと上から下へ滑る。悠の視線も、同じ軌跡を辿る。互いの視線が、肌の上を撫でるように交錯する。

 沈黙が、五秒、十秒。緋雨の指が、つるりとした胸の中央に留まる。熱が、指先から腕へ伝わる。悠の息が、深く吸い込まれる。胸が膨らみ、指の下で動く。緋雨は立ち上がり、道具を机に置く。だが、距離を離さない。悠の膝に、手を置く。支えるように。悠の視線が、緋雨の胸元へ落ちる。シャツの布地の下、抑えられた膨らみの輪郭。息遣いが、混じり合う。

「どう」

 緋雨の言葉が、静かに落ちる。質問の形だが、答えを求めない。悠の唇が、微かに開く。声は出ない。ただ、視線が熱を増す。指が、緋雨の手に触れる。軽く、重ねるように。つるぺたの肌の余熱が、二人の間に残る。雨が窓を叩く音が、鼓動のように響く。緋雨の内面で、疼きが広がる。胸元だけではない。もっと下へ。刃が滑る感触が、想像を呼ぶ。

 悠が立ち上がる。椅子が微かに軋む。つるりとした胸が、緋雨の視線高さに並ぶ。距離が、溶けかかる。視線が絡みつき、離れない。沈黙が、次の約束を紡ぐ。剃毛の余熱が、互いの肌を静かに揺らし始める。アトリエの空気が、甘く重くなる。夜は、まだ深い。

(つづく)