この作品は18歳未満の方の閲覧を禁止します。フィクションであり、現実の人物・事件とは一切関係ありません。
## 第3話:剃刀の白い露わ
雨は、夜通し窓を濡らし続けていた。あの布の夜から、一週間も経っていない。数日、沈黙が積もるだけの時間。平日の夕暮れ、アパートの部屋は街灯の淡い光に染まる。拓也はソファに座り、視線を落としている。私は台所でグラスを拭き、指先の感触を思い出す。あの柔らかな布の下で、脈打つ肌。手首の微かな抵抗が、夜ごとに蘇る。
夕食は、いつも通り。箸の音が消え、互いの息だけが残る。コーヒーの蒸気が、唇に薄い膜を残す。私はカップを置き、膝を寄せる。距離は、変わらず三十センチ。肩が触れぬ空白。拓也の唇に、残る湿り気。街灯の光が、きらりと反射する。食卓の残光が、深みを増す。
沈黙が、重くなる。私の喉が、乾く。視線を上げると、彼の瞳がこちらを捉える。黒い湖面に、かすかな波。布の約束が、残した熱。触れぬ距離に、肌が疼く。私は、指を組み替える。言葉を探す。心の奥で、抑えていたものが、零れ落ちる。「拓也」 声が、低く出る。「もっと……肌を、綺麗にしてみない?」
彼の息が、止まる。視線が、深くなる。拒否ではない。喉が、ごくりと鳴る。低く、響く音。「……どうやって?」 短い問い。合意の予感。私は立ち上がり、バスルームへ向かう。引き出しから、剃刀を取り出す。新しい刃、滑らかな柄。シェービングクリームの缶。白く、柔らかな泡を想像する。部屋の空気が、熱を帯びる。
リビングに戻る。拓也は、すでにシャツを脱いでいる。上半身が、街灯に照らされる。二十五歳の肌、引き締まった輪郭。血のつながらない同居人の、露わな姿。私は膝をつき、床にシートを広げる。簡易の場所。雨音が、遠く響く。「ここに、横になって」 静かな指示。彼は、頷き、床に身を預ける。手首は、自由だ。だが、布の記憶が、肌に残る。
私は缶を振り、クリームを指に取る。白く、冷たい感触。拓也の視線が、私の指先を追う。息が、わずかに乱れる。私は、ゆっくりと彼の肌に塗り広げる。胸の中央から、下腹部へ。柔らかな毛を、泡が包む。指先が、震える。温かく、脈打つ肌の下で、何かが蠢く。クリームの冷たさが、溶け、湿り気を増す。空気に、甘い匂いが混じる。
剃刀を手に取る。刃の冷たい光。街灯が、反射する。私は、息を整える。唇に、唾液の膜が残る。コーヒーの残り香が、滴るように漂う。拓也の唇も、同じ。薄い輝きが、互いの視線を繋ぐ。「動かないで」 囁き。彼の瞳が、揺れる。頷き。沈黙が、部屋を満たす。
刃を当てる。最初は、胸のライン。ゆっくり、滑らせる。毛が、泡と共に剃れ落ちる。露わになる肌、白く、滑らか。指先で、確かめる。つるりとした感触。震えが、指から腕へ伝わる。拓也の息が、途切れる。胸が、わずかに上下する。視線が、絡みつく。私の唇が、熱く。唾液が、ゆっくりと滑る。滴が、唇の端に溜まる。
次に、腹部。刃の音がかすか。シュッ、シュッ。静寂を破る微音。肌が、次第に白く輝く。街灯の光が、新たな露わさを照らす。指で拭う。クリームの残りを、丁寧に。脈の鼓動が、指先に響く。熱く、速まるリズム。拓也の喉が、再び鳴る。低く、抑えきれない響き。私の首筋に、汗がじわりと浮かぶ。
下へ。慎重に。泡を塗り足す。白く、厚く。刃を滑らせる。抵抗なく、毛が落ちる。露わになる肌の白さ。無防備で、震えるような純度。指先が、なぞる。つるつるの感触に、息が止まる。空気に、湿り気が混じる。私の唇から、滴が落ちぬよう、飲み込む。ごくり、という音が、部屋に響く。拓也の瞳が、熱を帯びる。
完成に近づく。最終のライン。刃を、ゆっくり。肌が、全くの白に変わる。指で、全体を撫でる。滑らかさ、温かさ。震えが、全身に広がる。拓也の息が、荒くなる。手が、床シートを握る。布の記憶が、蘇るような抵抗。視線が、深く沈む。私の唇が、近づく。息の距離、五センチ。唾液の光が、互いの肌を濡らすように漂う。
沈黙が、頂点に達する。剃られた肌の白さが、街灯に輝く。無垢で、熱い。指先が、震えを抑えきれず、彼の肌を押さえる。脈が、激しく伝わる。拓也の唇が、わずかに開く。滴る唾液が、端から滑る。私の喉が、鳴る。息が、混じり合う。熱く、湿った空気。肌が、甘く疼く。首筋から、胸へ、腹へ。剃られた白い肌が、熱を呼び起こす。
視線が、揺れる。黒い瞳の底に、渇望の炎。私の胸に、電流が走る。部分的な頂点。抑えきれない震えが、互いの体を駆け巡る。指が、無意識に彼の白い肌をなぞる。滑らかな感触に、息が途切れる。唇の滴が、重くなる。落ちそうで、落ちぬ。雨音だけが、遠く響く。
私は、剃刀を置く。タオルで、優しく拭う。最後の触れ。肌の白さが、余韻を残す。拓也の瞳が、私を捉える。深く、熱く。「次は……もっと」 私の声が、震える。「縛って、この肌に……唇の滴を落とす夜を」 約束の言葉。合意の誘い。彼の喉が、鳴る。頷き。視線が、溢れ落ちる。
立ち上がる。空気に、残る湿り気。唾液とクリームの混じり。剃られた肌の白さが、部屋を照らす。この疼きが、頂点へ向かう。触れられない熱が、溶け出す予感。
(つづく)