如月澪

取引先の視線に震える新人OL(第2話)

この作品は18歳未満の方の閲覧を禁止します。フィクションであり、現実の人物・事件とは一切関係ありません。

## 第2話:隣席の息遣いに肌が震える

オフィスの空気は、前回と同じく平日午後の柔らかな淀みの中にあった。窓辺のカーテンがわずかに揺れ、街の喧騒を遠くに押しやる。美咲は会議室のドアをくぐる前に、深く息を吸い込んだ。入社3ヶ月を過ぎ、業務の流れに慣れつつあるはずなのに、今日の席次表が頭から離れない。浩介の隣。24歳の彼女は、鏡で整えた化粧を無意識に指で確かめ、デスクの資料を抱えて席に着く。心臓の鼓動が、静かに速まる。

ドアが開き、浩介が入室した。スーツの生地が光を淡く受け、肩のラインが前回より近く感じる。彼は軽く視線を巡らせ、美咲の隣に腰を下ろす。距離は、肩が触れそうなほど。空気が、わずかに濃くなる。浩介の体温が、布地越しに伝わってくるような錯覚。ミーティングが始まると、先輩部長の声が響き、資料の配布が始まる。美咲は自分の担当分を浩介に手渡す。今度は指先が、ほんの少し触れた。柔らかな感触が、電流のように走る。浩介の視線が上向き、静かに「ありがとう」と。低く穏やかな声が、耳元で息づかいと共に届く。

解説が始まる。美咲の役割は、プロジェクトの数値データを補足すること。画面を投影し、ペンを滑らせながら説明を進める。浩介の肩が、わずかに動くたび、息が耳に触れる距離で。温かく、静かなリズム。視線が交錯する瞬間、肌が熱くなる。資料の数字を指差す手が、微かに震えそうになるのを堪える。彼の瞳は真剣で、時折うなずく仕草が、業務の枠を超えた何かを湛えている。美咲は言葉を繋ぐのに集中しようとするが、隣の存在がすべてを塗り替える。息づかいが、耳朶をくすぐるように。仕事の合間、視線を逸らすのが精一杯だった。浩介のペンの音、ページをめくる指の動き。すべてが、肌に染み込む。

部長の進行が一段落し、浩介が質問を挟む。「この数値の根拠を、もう少し詳しく。」声が近く、低く響く。美咲は頷き、追加資料を広げる。肩が、かすかに触れ合う。布地の摩擦が、熱を呼び起こす。説明を終える頃、頰が内側から火照るのを感じた。浩介の視線が、資料から彼女の顔へ移る。わずかな沈黙に、胸の奥が疼く。業務だ、と自分に言い聞かせるのに、身体は正直だった。肌の表面が、静かに震える。

ミーティングは予定通り終了した。皆が席を立ち、部長と浩介が軽く言葉を交わす中、美咲は資料をまとめながら息を整える。浩介が振り返り、「今日の解説、わかりやすかった。助かるよ」と。さりげない一言に、頰が緩む。笑みが自然に浮かび、「ありがとうございます」と返す声が、少し上ずる。彼の瞳に、柔らかな光が宿る。ドアが閉まる音が響き、会議室から出ていく足音が遠ざかる。美咲は机の上を片付け、オフィスに戻る。午後の業務が、再び淡々と始まる。メールの確認、パソコンのキーボードを叩く音。窓の外は、夕暮れが忍び寄り、街灯の灯りがぼんやりと浮かび上がる。

定時を過ぎても、美咲はデスクに残っていた。残業の山。プロジェクトのフォローアップで、数字の整合を確かめる。オフィスは人が減り、遠くの電話の音や空調の微かな唸りだけが響く。平日夜の静けさ。コーヒーの苦みが、集中を助ける。ふと、廊下に足音が聞こえた。エレベーターの扉が開く音。誰だろう。視線を上げると、ドアの向こうに浩介の姿。取引先のはずなのに、どうして。心臓が、再び速まる。

彼は軽く手を挙げ、近づいてくる。「忘れ物を取りに。資料のコピー、置いてったんだ。」穏やかな声。美咲は立ち上がり、「こちらですか?」と自分のデスクからそれを探す。浩介が隣に寄り、体温がまた近く感じる。オフィスは、二人きり。遠くの廊下に、他の気配はない。夕暮れの光が窓から差し込み、デスクの影を長く伸ばす。浩介の視線が、彼女の手に留まる。「いや、君の隣に置いてたやつだ。ミーティングの後、気づかなくて。」美咲は頷き、会議室から持ち帰ったファイルを渡す。指先が、再び触れ合う。今度は、意図せず長く。

空気が、静かに変わる。浩介の息遣いが、近くで聞こえる。肌が、熱く疼く。二人きりのオフィスで、何かが動き出す予感。美咲の胸が、ざわつく。

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