久我涼一

妻のママ友、夫の知らぬ午後の疼き(第2話)

この作品は18歳未満の方の閲覧を禁止します。フィクションであり、現実の人物・事件とは一切関係ありません。

## 第2話:偶然の買い物、膝の触れ合うカフェの熱

 あれから数日後の平日夕方、浩司はいつものスーパーで買い物を済ませていた。仕事帰りの空はすでに薄暮れに染まり、店内の蛍光灯が淡く照らす通路は、帰宅を急ぐ大人たちの足音だけが響く。妻の美香に頼まれた食材をカゴに入れながら、浩司の掌に残るあの感触を、ふと思い出していた。美佐子の指先の柔らかさ、耳元で囁かれた言葉。胸の奥でくすぶる疼きは、日常の合間に息を潜め、静かに膨らみ続けていた。

 レジに向かう列で、背後に並ぶ気配を感じた。振り返ると、そこに美佐子が立っていた。淡いベージュのコートを羽織り、手に小さなバスケット。黒髪が肩に落ち、夕暮れの光を受けて艶やかに輝く。彼女の目が浩司を捉え、わずかに見開かれた。

「浩司さん……こんなところで」

 美佐子の声は低く、驚きと喜びが混じり合う。浩司の喉が、乾いた。列が進む中、二人は自然に言葉を交わした。美佐子は近くのフリーランスの仕事帰りだという。夫の帰宅は遅く、夕食の材料を買いに寄っただけ。浩司も同じく、美香の待つ家路を急ぐ身の上。世間話のはずが、互いの視線が絡み、集まりの日の熱がよみがえる。

 レジを抜け、駐車場へ向かう足取りが重なる。美佐子の車は浩司の隣。エンジンをかけながら、彼女が窓から顔を覗かせた。

「せっかくだし、少しお茶でもどう? あそこのカフェ、静かでいいのよ。仕事の疲れも吹き飛ぶわ」

 浩司は一瞬、躊躇した。妻の顔が脳裏をよぎる。でも、美佐子の瞳に宿る微かな渇望が、掌の記憶を呼び起こす。頷くと、彼女の唇に穏やかな笑みが広がった。数分後、二人は街はずれの小さなカフェに入っていた。平日夕方の店内は空席が多く、窓際のテーブルに座る大人たちの静かな会話と、ジャズの調べが流れている。外は雨がぽつぽつと降り始め、街灯がぼんやりと灯りだす。

 コーヒーの湯気が立ち上る中、会話は自然に深まった。美佐子はカップを手に、ゆっくりと息を吐いた。

「この前のお話、ずっと頭に残ってるわ。浩司さんも、きっと同じよね。夫婦って、長いとただの習慣になる。触れ合うのも、言葉を交わすのも、義務みたいで」

 浩司はカップを口に運び、彼女の言葉に頷いた。最近の美香との夜は、ただ並んで眠るだけ。仕事の疲れが体を重くし、欲求を押し殺す日々。美佐子はさらに続ける。夫の出張が増え、帰宅してもスマホをいじる姿。夜のベッドで一人、体の奥が疼く孤独を、抑えた声で明かした。彼女の指がテーブルで動き、浩司の手に近づく。互いの日常の重みが、言葉の端々ににじみ出る。

「私たち、似てるわね。45歳、43歳。まだ体は熱いのに、心が乾いてる。浩司さんみたいな人が、そばにいてくれたら……少し、違うのかしら」

 美佐子の膝が、テーブルの下で浩司の膝に触れた。偶然か、意図か。布地越しの温もりが、静かに伝わる。浩司の息が、わずかに乱れた。彼女の瞳が熱を帯び、睫毛の影が深くなる。カフェの柔らかな照明が、ニットの襟元から覗く鎖骨を照らし、微かな脈動を感じさせる。浩司は無意識に手を伸ばし、テーブルの上で彼女の指に触れた。細く、白い指先が、絡むように重なる。あの日の感触が、より鮮やかによみがえる。

 会話が途切れ、二人は黙って見つめ合った。膝の接触が続き、美佐子の脚が微かに動く。浩司の指が、彼女の手の甲を優しく這う。柔らかな肌の質感、わずかな湿り気。体温が指先から腕へ、胸へ伝わり、浩司の肌を熱くする。美佐子の息が速くなり、唇が湿る。彼女の胸元が、静かなリズムで上下する。距離が縮まり、浩司の顔が近づく。キス寸前の吐息が混じり合う。彼女の香り、コーヒーと混ざった大人の甘さ。唇が触れそうになった瞬間、浩司は我に返った。

 窓の外で雨が強まり、カフェのドアが開く音が響く。誰かが入店し、空気が現実に戻る。浩司は手を引き、息を整えた。美佐子も目を伏せ、微笑む。

「ごめんなさいね、浩司さん。こんなところで、熱くなって」

 彼女の声は穏やかだが、瞳の奥に残る炎が、浩司を捉える。会計を済ませ、外へ出る。雨脚が緩み、街灯の下で別れの挨拶。美佐子のコートに雨粒が光る。

「また会いたいわ。次は、もっとゆっくり話しましょう。この疼き、抑えきれないもの」

 車に乗り込む彼女の後ろ姿を見送り、浩司は自分の車へ。エンジンをかけながら、膝の感触、手の温もり、息の熱さが体に残る。妻の待つ家路を急ぎつつ、理性の糸が、ゆっくりと緩み始めるのを感じていた。美佐子の言葉が耳に残り、次の機会を、胸の奥で待ちわびる。

(第3話へ続く)

(文字数:約2050字)