この作品は18歳未満の方の閲覧を禁止します。フィクションであり、現実の人物・事件とは一切関係ありません。
## 第1話:滞納の視線
雨の止んだ夜、アパートの廊下に私の足音だけが響く。平日、午後十時を回った頃合いだ。街灯の淡い光が窓から差し込み、壁に長い影を落とす。この建物は私が管理する。家賃の滞納者など、珍しくはないが、今回は違う。部屋番号302、美咲の部屋。二十五歳の彼女が、二ヶ月分を溜め込んでいる。
ドアを二度、控えめにノックする。内側から、かすかな物音がする。鍵が回る音がして、ドアが僅かに開く。チェーンロックが外れていない。隙間から、彼女の顔が覗く。長い黒髪が肩に落ち、細い首筋を縁取る。スレンダーな体躯が、薄手の部屋着に包まれている。瞳が僅かに揺れる。
「大家さん……こんな時間に、どうしたんですか」
美咲の声は低く、警戒を帯びている。私は静かに視線を合わせる。言葉より先に、目で彼女を測る。細身の肩、華奢な腕。家賃の督促状を数枚、ポケットから取り出すこともできたが、無駄だ。代わりに、ゆっくりとドアを押す。彼女は一瞬躊躇うが、引く。
「入ってもいいか」
命令ではない。だが、選択肢を与えない間合いだ。彼女は頷き、ドアを全開にする。部屋の中は薄暗く、ランプの光が柔らかく広がる。散らかった雑誌、テーブルの上の空のワイングラス。独り暮らしの気配が、静かに漂う。私は靴を揃えて上がり込む。彼女は後ずさり、ソファの端に腰を下ろす。
私は部屋の中央に立ち、腕を組む。視線を落とさず、彼女の顔を捉える。長い髪が、息づかいに揺れる。細い指が膝の上で絡み合う。
「家賃、二ヶ月分だ。いつ払うつもりだ、美咲」
名前を呼ぶ。二十五歳の彼女は、勤め先を辞めて以来、連絡を絶っていた。瞳が泳ぐ。唇が僅かに開く。
「すみません……もう少し待ってください。来月には」
「来月か。いつもの言い訳だな」
私の声は低く、抑揚を抑える。彼女の肩が僅かに縮こまる。視線を移さず、細身の肢体を追う。部屋着の裾から覗く、すらりとした脚。肌の白さが、ランプに照らされて艶めく。私は一歩近づく。ソファの前に立つ。彼女の頭上から見下ろす形になる。
空気が重くなる。彼女の呼吸が、浅く速まる。長い髪が肩を滑り落ち、胸元を覆う。私は動かず、ただ視線で押す。家賃の額を口にせず、沈黙で責める。彼女の瞳が、私の顔を探る。戸惑いが、徐々に色づく。
「大家さん……本当に、ごめんなさい。仕事を探してるんです。ただ、もう少し」
「仕事か。見つからなければ、この部屋は空けることになる」
言葉を切る。彼女の細い喉が、飲み込むように動く。私は腰を屈め、視線を合わせる。息がかかる距離。彼女の香水の残り香が、甘く鼻を掠める。スレンダーな体が、僅かに震える。
「だが、方法はある。お前の支払い能力が低いなら、私の管理下で暮らせ」
静かに告げる。彼女の瞳が見開く。長い髪が、首を振るように揺れる。
「管理……って、どういう」
「詳しくは明日、私の部屋に来い。301号室だ。一一時、ピッタリに」
提案ではない。決定事項だ。私は立ち上がり、視線を外さない。彼女の細身の肩が、息を詰めて上がる。肌が、僅かに紅潮しているのがわかる。欲情が、私の胸に湧くのを抑え込む。理性が、冷徹にそれを封じる。この女の肢体、ロングヘアの絡まる細い腰。すべてを、管理下に置く価値がある。
彼女は言葉を探すが、声が出ない。瞳に、戸惑いと、何か別の光が宿る。主導権は、すでに私の手中だ。私は踵を返し、ドアへ向かう。
「鍵はかけろ。夜は用心だ」
振り返らず、告げる。ドアを閉め、廊下に出る。背後で、カチャリと鍵の音。私の部屋に戻り、グラスにウイスキーを注ぐ。唇に運びながら、明日を思う。美咲の瞳。あの戸惑いが、どのように変わるか。細身の体が、私の視線に絡め取られる瞬間を。
夜の静寂が、甘い予感を運んでくる。
(第2話へ続く)