冬特集芦屋恒一

雪山荘の年齢差に疼く肌(第1話)

この作品は18歳未満の方の閲覧を禁止します。フィクションであり、現実の人物・事件とは一切関係ありません。

## 第1話:吹雪の夜、絡みつく視線

 雪は、まるで世界の終わりを告げるかのように降り積もっていた。山荘の窓ガラスを叩く音が、絶え間なく響く。僕は芦屋恒一、六十二歳の小説家だ。普段は街の喧騒を避け、この雪深い山間に建つ古い山荘を執筆の隠れ家にしている。今日も、編集者の佐藤美咲が東京から駆けつけてきた。三十五歳の彼女は、僕の新作の原稿を携え、打ち合わせのためにやってきたのだ。

 外は猛吹雪。午後から急に天候が荒れ、道路はすでに寸断されたとラジオで報じていた。美咲の車も、麓の駐車場に置き去りだ。僕たちは孤立無援の状態で、山荘の居間に腰を下ろしていた。暖炉の炎が、橙色の光を部屋に投げかけ、薪の爆ぜる音が静寂を優しく破る。テーブルの上には、ウイスキーのボトルとグラスが並び、原稿の束が無造作に置かれている。

「芦屋先生、今回の原稿……本当に素晴らしいです。抑制された筆致が、読者の胸を締めつける。年齢を重ねた男の内面が、こんなに鮮やかに浮かび上がるなんて」

 美咲がグラスを傾けながら、穏やかに微笑む。彼女の声は柔らかく、雪の降る夜に溶け込むようだ。黒いセーターを纏った華奢な体躯。細い肩から鎖骨のラインが覗き、胸元は控えめな膨らみを抑え込んだように平坦だ。つるぺたなそのシルエットが、暖炉の光を受けて微かに影を落とす。僕は視線を逸らさず、グラスを口に運んだ。年齢差、二十七歳。僕の人生の半分以上を生き抜いた彼女だが、こんな状況で二人きりになると、妙な緊張が肌を這う。

「君の編集がなければ、形にならなかったよ。美咲さん。君のような若い感性が、僕の古い視点を研ぎ澄ましてくれる」

 僕は慎重に言葉を選ぶ。仕事人間として、家庭を背負い、責任を果たしてきた六十余年。軽率な行動など、取ったためしがない。だが今、吹雪の壁に囲まれ、暖炉の熱が部屋を満たす中、彼女の存在が静かに僕の抑制を試す。美咲はグラスを置き、原稿に目を落とす。長い黒髪が肩に落ち、セーターの生地が彼女の細い体に沿って張る。その胸のライン――貧しく、しかし潔い平坦さが、逆に男の視線を絡め取る。僕は酒を一口。喉を焼く熱が、胸の奥にまで染み渡る。

 外の雪は激しさを増し、窓を白く覆い尽くす。山荘は雪の重みで軋み、まるで僕たちの世界を閉ざす牢獄のようだ。美咲が立ち上がり、窓辺に寄る。背中越しに、彼女のシルエットが暖炉の炎に照らされる。細い腰、控えめなヒップの曲線。僕はソファから動かず、ただ見つめる。年齢の差が、こんなにも甘く疼くとは思わなかった。彼女の肌は、きっと滑らかで、触れれば冷たい雪のように震えるだろう。

「先生、外……本当に止まりそうにありませんね。明日の朝まで、ここで過ごすことになりそうです」

 美咲が振り返り、微笑む。その瞳に、わずかな不安と、好奇心のようなものが混じる。僕は頷き、ウイスキーを注ぎ足す。グラスを渡す瞬間、指先が触れ合う。彼女の肌は温かく、柔らかい。電流のような震えが、僕の指を伝う。彼女は気づかぬふりでグラスを受け取り、再びソファに腰を下ろす。今度は、少し近い。膝が触れそうな距離だ。

 会話は自然と、僕の過去へ移る。仕事に追われ、家庭の重みを背負った日々。妻との別れ、子供たちの独立。美咲も、自分のキャリアを語る。編集者として駆け上がりながら、恋に臆病になった三十五歳の孤独。酒が進むにつれ、声のトーンが低くなり、視線が絡み合う。暖炉の炎が彼女の頰を赤らめ、つるぺたな胸のラインを強調する。セーターの生地が、息づかいに合わせて微かに揺れる。あの平坦な感触を、掌で確かめたくなる衝動を、僕は静かに抑える。雪の静寂が、僕たちの緊張を増幅させる。

「先生の小説みたいですね、この状況。雪に閉ざされた山荘で、二人の距離が少しずつ……」

 美咲の言葉が途切れる。彼女の瞳が、僕の視線を捉える。そこに、抑制された熱が宿る。僕はグラスを置き、ゆっくりと息を吐く。外の風が唸り、雪の粒が窓を叩く。部屋の空気が、重く甘くなる。彼女の肩が、わずかに近づく。息づかいが聞こえるほどだ。

 その時だった。突然、部屋の灯りが揺らぎ、暖炉の炎だけが残る暗闇が僕たちを包んだ。停電。山荘全体が、雪の闇に沈む。美咲の小さな息が、すぐそばで聞こえる。互いの体温が、暗闇の中で近づき……。

(第2話へ続く)