如月澪

クール教師の疼く視線誘惑(第2話)

この作品は18歳未満の方の閲覧を禁止します。フィクションであり、現実の人物・事件とは一切関係ありません。

## 第2話:資料室に忍び寄る熱い指先

 研修室の照明が一つずつ落とされ、部屋は薄暗い残光に包まれていた。外の夜景が窓ガラスに映り込み、ビルの谷間からかすかな車のエンジン音が漏れ聞こえる。拓也はデスクに残された資料の山を前に、涼香の指示に従って整理を進めていた。彼女の意外な微笑みが、まだ胸の奥に残る疼きを呼び起こす。残業を手伝うなんて、日常の延長線上で生まれたこの状況。心臓の鼓動が、静かな部屋で少しずつ速さを増していた。

 涼香は隣の椅子に座り、プロジェクターのデータをノートパソコンにまとめていた。黒いスーツの袖口から覗く手首が、白く細い。時折、彼女の息遣いが聞こえる。講義中のクールな声とは違い、近くで感じるそれは微かに柔らかく、部屋の空気に溶け込んでいた。

 「ここ、このフローチャートをファイルにまとめてもらえる? 順序が大事よ」

 彼女の声がすぐ横から響き、拓也は頷いて資料に手を伸ばした。その瞬間、涼香の指先が拓也の手に軽く触れた。クールな感触。冷たくはない、むしろわずかな温もりが伝わる。彼女は資料を指し示すために伸ばしただけだろう。でも、その指が一瞬、拓也の指の甲をなぞるように滑った。偶然か。肌がぞわりと反応し、息が止まりそうになる。

 「ありがとう。君、手際がいいわね」

 涼香の視線が、拓也の顔に移る。冷ややかなはずの瞳が、間近で見ると深く、底に微かな揺らぎを宿している。唇の端がわずかに上がり、微笑みの余韻を残す。拓也は言葉を探し、資料をめくりながら答えた。

 「いや、そんな……普段の業務で似た作業をしていますから」

 彼女は小さく頷き、再びパソコンに向かう。だが、その後も指先の触れ合いは続く。資料を渡す時、ページを揃える時。クールな動作の中に、意図的なのか無意識なのか、指の腹が拓也の手に触れる。毎回、微かな熱が伝わり、拓也の首筋が熱を持つ。研修室の空気が、徐々に重く、甘く変わっていく。外の街灯が窓に揺れ、雨粒がぽつぽつとガラスを叩き始める。平日の夜、こんな密室で。

 作業が進むにつれ、涼香の息が微かに変化した。最初は淡々とした吐息だったものが、近くで聞くと少し熱を帯び、かすかに乱れる。彼女の肩が、時折拓也の方に寄る。スーツの生地が擦れる音が、静寂の中で響く。拓也の身体に、日常の延長で生まれる緊張が疼きを呼び起こす。心がざわつき、視線を資料に落とすが、集中できない。彼女の香水の匂いが、鼻先をかすめ、胸の奥を掻き乱す。

 「この部分、業務でどう活かしているの? 個別に聞かせて」

 涼香が身を寄せ、拓也の画面を覗き込む。彼女の髪が肩に触れ、息が耳元にかかる。熱い。クールビューティーの仮面の下で、吐息が微かに湿り気を帯びていた。拓也は声を抑え、説明を始める。彼女の指が、再び拓也の手に重なる。今度は離れない。細い指が、優しく絡むように握る。指導の名目か。それとも。

 「ふうん……なるほど。君の考え方、面白いわ。もっと深く知りたくなる」

 彼女の声が、低く囁くように変わる。視線が拓也の唇を、首筋を、ゆっくりとなぞる。冷たいはずの目が、熱を孕み、深まる。拓也の身体が震え、膝がわずかに閉じる。疼きが、下腹部にまで広がる。この緊張、日常の研修から生まれたはずのものが、こんなにも身体を焦がすなんて。涼香の指が、ゆっくりと離れるが、その余熱が残る。彼女は微笑み、作業を再開する。だが、空気はもう、元には戻らない。

 資料整理が一段落ついた頃、外は本格的な雨に包まれていた。窓ガラスを叩く音が、部屋の静けさを強調する。時計は夜の10時を回り、ビルの廊下は人影もなく、蛍光灯の淡い光だけが足元を照らす。涼香はパソコンを閉じ、立ち上がった。スーツのラインが、薄暗い照明で妖しく浮かび上がる。

 「今日はありがとう。君のおかげで早く終わったわ。また、機会があったら」

 彼女の言葉に、拓也は頷く。心臓がまだ速く鳴る。部屋を出て、エレベーターでロビーまで降りる間も、指先の感触が消えない。雨の降る夜の街路に繰り出し、タクシーを拾って帰宅した拓也は、ベッドに横になりながら、今日の出来事を反芻する。クールな視線、熱い指先。夢か現実か。

 スマホが振動したのは、午前0時近く。画面に、涼香からのメッセージ。研修の連絡網に登録されていたはずのアドレスから。

 『今日の作業、お疲れ様。君の業務話、もっと聞きたいわ。明日、夜のラウンジでどう? 場所は送る』

 短い文面に、心がざわつく。クールな教師の意外な積極性。日常の延長で、こんな誘いが。返信を打ちながら、拓也の指が震えた。了承の言葉を送る。画面越しの彼女の視線が、想像の中で深まる。

 雨音が窓を叩く夜、約束の予感が、静かに身体を疼かせる。

 (続く)