芦屋恒一

旅の人妻ストッキング誘惑(第2話)

この作品は18歳未満の方の閲覧を禁止します。フィクションであり、現実の人物・事件とは一切関係ありません。

## 第2話:宴席の脚熱

 部屋に戻った後も、美佐子の微笑みが脳裏に残った。布団に横たわり、湯気の残る窓から見える山影を眺めながら、六十歳の体に静かなざわめきが広がる。抑制せねばならない。現実の男として、ただの旅の出会いに過ぎぬ。それでも、ストッキングの光沢が膝の上で揺れた記憶が、胸の奥を甘く疼かせる。酒の余韻が体を重くし、やがて眠りに落ちた。

 翌朝、湯に浸かり体を解す。平日ゆえ、宿は静かだ。昼食を軽く済ませ、庭を散策する。木々の葉ずれと遠くの風音だけが響き、大人たちのゆったりした足取りが時折見える。夕刻近く、再び大広間に集う客たち。昨夜の夕食が控えめだった分、今宵は宴席が設けられたそうだ。女将の声が柔らかく告げる。「お一人お一人、ゆったりとお楽しみください」。卓が円を描き、地酒と肴が並ぶ。私は窓際の席に着き、美佐子の姿を探す。自然な視線だ、と自分に言い聞かせる。

 やがて、彼女が現れた。淡いグレーのワンピースに、変わらぬ黒のストッキング。昨夜より柔らかな装いだが、脚線はより鮮やかに浮かび上がる。席は隣同然、宿の配慮か。互いに視線を交わし、軽く会釈。「昨夜はゆっくりお休みでしたか」と私が尋ねると、美佐子は穏やかに頷く。「ええ、あなたのお話が心地よかったので」。酒が注がれ、盃を合わせる。地酒の醇みが喉を滑り、体を温める。客は数人、皆大人の落ち着きを湛え、低い笑い声が畳に溶ける。

 会話は自然に深まる。美佐子の人生を、ぽつぽつと聞く。三十五歳、結婚十年。夫は商社マンで、海外出張が常態化しているそうだ。「最初は刺激的でした。でも、最近は……」。言葉を切り、盃に口をつける。すれ違いの日常が、静かに語られる。夫の帰宅は深夜、会話は業務連絡だけ。夜の営みは、月に一度あるかないか。彼女の瞳に、微かな影が差す。私は頷き、自分の重ねた孤独を重ねる。妻との別居、子供たちの独立。責任の鎖が解けても、心の隙間は埋まらぬ。「お互い、似たようなものですね」。酒が回り、声が低くなる。

 卓下で、ふと脚が触れた。美佐子のストッキング越しに、細い膝が私の腿に軽く寄り添う。偶然か、それとも。布地の薄い光沢が、熱を伝える。滑らかな感触が、肌を通じて体を駆け巡る。私は息を潜め、視線を卓上に留める。彼女も気づいた様子で、わずかに脚を引くが、完全に離れぬ。むしろ、微かな圧が残る。ストッキングの繊維が、互いの体温を優しく擦れ合わせるようだ。六十歳の私が、三十五歳の女性の脚熱に、抑えきれない疼きを覚える。現実的であれ、と戒めるが、心臓の鼓動が速まる。

 会話は抑制されたまま続く。「夫は仕事熱心で、尊敬します。でも、私の時間は……」。美佐子が続ける。夫婦のすれ違いが、酒の勢いで詳しく語られる。週末の約束もキャンセル続き、ベッドは冷たい。彼女の声に、溜め息が混じる。私は静かに耳を傾け、「それは辛いですね」と返す。言葉の端に、互いの視線が絡む。宴の灯りが、彼女のストッキングを淡く照らす。脚の触れ合いが、会話の合間に繰り返す。軽く、しかし確実に。膝から脛へ、ストッキングの薄い膜が熱を帯び、私の体を甘く焦がす。年齢差の重みが、かえって欲求を深くする。二十五年もの隔たりが、禁断の甘さを加える。

 酒が進み、客たちの声が遠くなる。美佐子の頰が僅かに紅潮し、瞳が潤む。「あなたのような方が、こんなところで出会えて良かった」。その言葉に、胸が震える。私は盃を置き、手を卓下に落とす。指先が、偶然彼女のストッキングに触れる。滑らかな感触。彼女は動かず、ただ微笑む。触れ合いは、合意の予感を静かに運ぶ。非現実的な熱が、体を巡るが、急がぬ。状況が自然に熟すのを待つ、それが私の信条だ。宴の空気が、二人だけのものに変わる。

 やがて、宴が引き上げの気配を見せる。女将の声が穏やかに締めくくる。私は立ち上がり、美佐子に目をやる。「おやすみなさい。また明日」。廊下へ出る。薄暗い灯りの下、彼女が後を追うように並ぶ。距離が近い。足音が、かすかに響く。「恒一さん、本当にありがとう。心が軽くなりました」。振り返った美佐子の微笑み。柔らかく、しかし熱を孕んだ視線。唇の端が微かに上がり、夜の静寂に溶ける。私は頷き、部屋へ向かう。

 扉を閉め、布団に沈む。体中が熱い。宴席の脚熱が、肌に残る。ストッキングの感触が、指先に甦る。抑制の夜が、静かに焦がす。美佐子の微笑みが、続きを予感させる。深夜、この宿で何が起こるのか。胸の疼きが、深く広がった。

(約1980字)