この作品は18歳未満の方の閲覧を禁止します。フィクションであり、現実の人物・事件とは一切関係ありません。
## 第2話:グラスの温もり、絡む指先
数日後の平日夜、拓也のスマホに慎からの新たなメッセージが届いた。「あのバーの近くに、いい店があるんです。昔話の続き、やりませんか。明日、20時で」。あのバー──10年前の記憶がよみがえる。東京の路地裏にひっそりと佇む、大人たちの隠れ家。街灯の淡い光がアスファルトを濡らす頃、慎の穏やかな眼差しが脳裏に浮かんだ。拓也は迷わず返信を打ち、翌日の約束を取り付けた。
指定されたバーは、慎の言った通り、あの頃のバーのすぐ近くにあった。雨上がりの夜空に、ネオンが柔らかく滲む。店内は薄暗く、ジャズのメロディが静かに流れ、カウンターに腰掛けた数人の客がグラスを傾けている。平日遅くの時間帯、仕事帰りの大人たちだけが息づく空間だ。拓也が入ると、奥の席で慎が手を挙げた。30歳の彼は、ダークグレーのシャツに細身のパンツ姿。照明の下で、肩のラインがしなやかに浮かび上がる。
「来てくれてありがとう、拓也さん。まずはこれ、どうぞ」
慎はバーテンダーに合図し、琥珀色のウイスキーを二つ注文した。グラスが置かれると、互いに軽く乾杯。氷の音が、心地よい静寂を刻む。慎の眼差しは第1話のスタジオで見た通り──穏やかで、安定した温かさがあった。遥の夫として彼女を支える彼の日常が、ふと想像されてしまう。
「この店、遥とよく来るんです。撮影のない平日夜に、二人で語り合う時間。彼女の仕事の話も、ここでよくするんですよ」
慎の声は低く、優しい。遥の日常を語る姿に、拓也は自然と耳を傾けた。28歳の彼女は、人妻AV女優として多忙を極めながらも、家では穏やかな妻。朝のコーヒーを淹れ、夜の食卓を整える。慎はそんな彼女の支え手として、静かに寄り添う。言葉の端々に、互いの信頼が滲む。
「遥は強い。でも、僕がいないと不安になる時があるんです。逆に、僕も彼女の存在で落ち着く。あの撮影の日、あなたを見て、昔の自分を思い出したんですよ」
慎の視線が、グラス越しに拓也を捉える。10年前のバーでの記憶──駆け出しのウェイターだった拓也は、客の慎にさりげない気遣いをしていた。あの頃の慎は独身で、仕事のプレッシャーに押しつぶされそうだったという。今は遥との絆で、心に余裕が生まれたそうだ。拓也はグラスを口に運び、ウイスキーの甘い余韻を味わった。慎の安定した眼差しに、胸の奥が緩むのを感じる。
「僕の方こそ、あの頃は孤独だったんです。AV男優になる前も、今も。華やかな現場の裏で、心の拠り所がない日々が続いてて……」
言葉が自然と零れた。28歳の拓也は、業界の厳しさを噛み締めていた。表向きの笑顔とは裏腹に、夜一人でベッドに横たわる時、虚しさが募る。慎は静かに聞き、うなずいた。その眼差しに、安心が広がる。まるで、長年の友のように。
「君の笑顔は、あのバーでも今でも変わらない。疲れた時に、君を見ると落ち着くんです」
慎の言葉が、静かに響く。二人はグラスを傾けながら、互いの人生を語り合った。遥の撮影エピソード、慎の仕事の合間の息抜き、拓也の現場での苦労。会話が深まるにつれ、カウンターの距離が自然と縮まる。慎の膝が、軽く拓也の腿に触れた。意図的か、無意識か──だが、どちらもそれを不快に思わない。
氷が溶け、次のグラスが運ばれる頃、慎の指が拓也の手に触れた。グラスを置く仕草で、自然に絡む。温かく、柔らかな感触。拓也の肌が、わずかに震えた。慎の息づかいが、近くで感じられる。ジャズのサックスが、低くうねるように流れる中、二人の視線が絡み合う。
「拓也さん……君がいると、僕も安心する。遥のいないこの時間、君とこうしているのが、心地いい」
慎の声は囁くように近く、吐息が耳にかかる。拓也の胸が高鳴った。男同士のこの距離感──AV男優として異性との絡みは慣れ親しんでいるが、慎の穏やかな熱は違う。信頼が基盤にあるからこそ、甘く疼く。指先がさらに絡み、互いの脈拍が伝わる。慎の眼差しは優しく、拒絶など微塵もない。合意の予感が、静かに空気を満たす。
バーの外、雨が再び降り始めた。店内の時計が深夜を指す頃、慎は時計を見て微笑んだ。
「そろそろかな。でも、この先の話……また、続きを」
その言葉に、拓也の心臓が強く打った。この関係は、どこへ向かうのか。慎の自宅への誘いの予感が、脳裏に浮かぶ。
(第2話 終わり)
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(約1950文字)