如月澪

看護師の唇蜜と透けるレース(第3話)

この作品は18歳未満の方の閲覧を禁止します。フィクションであり、現実の人物・事件とは一切関係ありません。

## 第3話:透けるレース、震える触れ合い

 翌朝、医者の回診で容態は安定したと告げられた。熱は完全に下がり、点滴も外れた。だが、過労の後遺症を考慮し、退院はさらに二日延期だと言われた。平日の昼下がり、病室の窓からは曇天が広がり、昨夜からの雨がようやく小降りになっていた。私はベッドに腰掛け、ぼんやりと外を眺めていた。身体は軽くなったが、心の中のざわめきは消えていない。遥さんの唇の甘い余韻、息の湿った熱が、昨夜からずっと肌に残っている。

 午後遅く、ノックが響いた。ドアが開き、遥さんが入ってきた。白衣姿ではなく、私服だ。淡いグレーのブラウスに、細身のスカート。黒髪をゆるくまとめ、肩に小さなバッグをかけている。夜勤前の準備か、それともシフトの合間か。彼女の姿に、胸がわずかに高鳴った。普段の白衣とは違う、柔らかな布地のラインが、身体の曲線を自然に浮き彫りにする。

「浩太さん、こんにちは。夜勤前に、少し顔を見に来ました。体調、どうですか?」

 遥さんの声は穏やかで、昨日までの親しげな響きを保っている。私は視線を上げ、微笑んだ。彼女はトレイに軽いおかゆと果物を持参し、ベッドサイドのテーブルに置いた。

「だいぶ良くなりました。退院延期だって言われて、拍子抜けですけど」

 彼女は椅子を引き寄せ、座った。ブラウス越しに、胸元のレースの縁が微かに透けて見える。薄い生地が、照明に照らされて影を落とし、繊細な花模様のレースが肌に寄り添うように浮かぶ。無意識に目を奪われ、慌てて視線を逸らした。心臓の鼓動が、静かに速まる。こんな日常の延長で、女性の内側の秘密が覗くなんて。

「それはよかった。でも、無理は禁物ですよ。私、夜勤でまたそばにいますから」

 雑談が始まった。退院延期の話から、彼女の今日の予定へ。朝のランニングを終え、カフェで軽くワインを飲んだこと。休憩を挟んで夜勤に入るつもりだという。言葉を交わすうちに、部屋の空気が昨夜の甘い淀みを思い起こさせる。視線が、時折ブラウスに落ちる。レースの透けが、息づかうたびに微かに揺れ、肌の白さが際立つ。

 ふと、遥さんは立ち上がり、トレイのおかゆを温め直そうと準備した。

「少し食べましょうか。まだ食欲ないかもですが、身体にいいんですよ」

 彼女はスプーンを手に、私の口元に運ぶ。穏やかな仕草だが、距離が近い。ブラウスが前屈みで開き、レースの谷間がより鮮明に透ける。柔らかな膨らみの輪郭が、布地の下で静かに息づく。私は一口受け、喉を通る温もりに加え、視界の誘惑に身体が熱を持つ。昨夜の氷の記憶が、重なる。

「ありがとう、遥さん。おかゆ、美味しいです」

 名前を呼ぶと、彼女の頰がわずかに上気した。食事が終わり、トレイを片付ける間、彼女は私の腕を軽く触った。点滴の跡を確かめる仕草だ。指先が肌に触れ、電流のような震えが走る。彼女も気づいたのか、手を止めて視線を合わせる。

「浩太さん……昨夜の、あの熱。まだ残ってますか?」

 声が低く、息が混じる。部屋の空気が、重たく甘くなる。私は正直に頷いた。言葉にできない疼きが、胸に溜まっている。

「ええ、冷ましたはずなのに……遥さんのせい、かも」

 互いの視線が絡み、沈黙が訪れる。彼女はベッドの縁に腰を下ろし、ゆっくりと手を伸ばした。私の肩に触れ、首筋へ。指先が、昨夜のタオルの軌跡をなぞるように滑る。温かく、柔らかな圧力。身体が、びくりと震えた。彼女の息が、近くで感じられる。シャンプーの香りと、微かなワインの余韻。

「私も……です。あの氷の後、ずっと考えてました。浩太さんの唇の感触、息の甘さ。看護師として、越えちゃいけない線なのに」

 遥さんの告白に、心が揺れる。彼女の瞳に、迷いが浮かぶ。大人の女性らしい、静かな葛藤。ブラウスが息づかいに揺れ、レースがより深く透ける。谷間の影が、誘うように深まる。私は手を上げ、彼女の指に触れた。血の繋がりなどない、ただの出会いから生まれたこの親密さ。日常の隙間で、こんな感情が芽生えるなんて。

「私も、迷ってます。遥さんみたいな人に、こんな気持ちになるなんて。仕事一筋で、忘れてた感覚です」

 言葉が零れる。互いの迷いを共有し、空気が熱を帯びる。彼女はさらに身を寄せ、顔が近づく。唇が、触れそうな距離で止まる。息が混じり合い、湿った甘さが絡みつく。昨夜の氷のように、唾液の予感が舌先に蘇る。彼女の唇端が、わずかに湿り、輝く。レースの胸元が、私の胸に触れそうなほど近い。身体全体が震え、熱が頂点に近づく。

 遥さんの手が、私の頰に触れた。指先が唇をなぞり、微かな湿り気が残る。唾液の蜜のような、甘い感触。息が熱く、首筋にかかる。私は目を閉じ、震えを抑えきれなかった。部分的絶頂が、身体を駆け巡る。快楽の波が、静かに頂きに達し、息を乱す。だが、唇は触れず、互いの視線で留まる。この距離が、最高の焦らし。

「浩太さん……こんなに震えて。私のレース、見えてますか? わざと、透けやすいのを着てきました」

 囁きに、胸が締めつけられる。彼女の迷いも、私のものと同じ。合意の甘い疼きが、二人を繋ぐ。

 時計の針が二十時を回り、彼女はゆっくりと身を引いた。夜勤の時間だ。ブラウスを整え、ドアへ向かう。

「今夜、もっと近くで話しましょう。病室で、二人きりで」

 その言葉に、期待が膨らむ。ドアが閉まり、静寂が戻る。私はベッドに横たわり、透けるレースの記憶を反芻した。唇の距離、震える肌。夜の訪れを、淡い熱が待つ。

(約1980文字)