芦屋恒一

看護師の黒ストッキングに疼く夜(第1話)

この作品は18歳未満の方の閲覧を禁止します。フィクションであり、現実の人物・事件とは一切関係ありません。

## 第1話:黒ストッキングの静かな足音

 五十歳を過ぎた頃、仕事の重圧が体に堪え、ようやく入院を余儀なくされた。心臓の検査入院だと言われたが、要はこれまでの無理が積もり積もった結果。妻は心配顔で面会に来たが、すぐに帰宅の途についた。病室は個室で、静かだった。窓の外は平日夜の闇が広がり、遠くの街灯がぼんやりと滲んでいる。雨がぱらつき、ガラスに細かな雫を残していた。

 担当看護師の紹介は、昼間の医師回診の後だった。カルテに記された名前は「恵子」。四十五歳。ベテランだそうだ。夕刻、彼女が初めて病室に入ってきた時、私はベッドに横たわり、新聞を広げていた。白衣の裾が軽く揺れ、足音がカツ、カツと響く。黒いストッキングに包まれた脚が、視界の端に滑り込んだ。

 恵子は穏やかな笑みを浮かべ、私の前に立った。白衣の下から覗くその脚線は、熟れた実りを思わせる。細すぎず、適度に肉付きの良いふくらはぎが、ストッキングの薄い光沢を帯びて照明に映えていた。膝下のラインが微かに曲線を描き、黒い素材が肌の温もりを閉じ込めているようだ。私は新聞から目を上げ、ついその脚に視線を落とした。五十歳の男が、こんなところで欲情を覚えるとは思わなかった。だが、私は慎重だ。視線を素早く逸らし、彼女の顔を見た。

「初めまして、佐藤浩一様。夜勤担当の恵子です。本日は体温と血圧を測らせていただきますね」

 声は低めで、落ち着いた響き。四十代後半の女性らしい、柔らかな重みがあった。白衣の胸元に名札が光り、短く整えられた髪が耳にかかる。化粧は薄く、唇に淡い光沢を残すだけ。だが、その控えめさが、逆に大人の色気を湛えていた。私は頷き、ベッドに体を起こした。

 彼女は手際よく準備を整え、体温計を手に取った。電子式のものだ。腋下に差し込む際、彼女の指先が私の肌に触れた。冷たくはない。むしろ、わずかな体温が伝わってくる。ストッキングの脚がベッドサイドに寄り、黒い光沢が私の視界を支配した。膝を軽く曲げた姿勢で、ふくらはぎの筋が微かに浮き出る。熟れた脚は、ただそこにあるだけで、静かな誘惑を放っていた。私は息を潜め、体温計のピッという音を待った。

「三十六度八分。正常です。血圧も測りますね」

 恵子はそう言い、腕帯を巻き始めた。彼女の指が私の上腕に触れる。柔らかく、しかし確かな力強さ。看護師の仕事二十年以上の手だそうだ。会話の中で、ぽつりと漏らした。「夜勤は静かで、集中できます。患者さんの体調も安定しやすいんですよ」。その言葉に、彼女の日常が浮かぶ。昼は家庭か、仕事の合間に何かを抱え、夜にこの白衣を纏う。血縁のない、ただの大人同士の出会い。五十歳の私と四十五歳の彼女。年齢差はわずかだが、そこに現実の重みが加わる。

 血圧測定中、彼女の脚がわずかに動いた。ストッキングの擦れる音が、かすかに聞こえた。シュッ、という微かな摩擦。私の視線は再びその脚に絡みつく。黒い光沢が、照明の下で細やかに輝き、肌の白さを際立たせている。太ももの付け根近くまで覆うストッキングは、白衣の裾から覗き、熟女の肉体を優しく包み込んでいた。疼きが、ゆっくりと腹の底に広がる。私はそれを抑え、彼女の顔を見上げた。恵子は淡々と作業を進め、視線を合わせることもなく、ただ職務をこなす。だが、その抑制された距離感が、逆に熱を煽った。

 測定が終わり、恵子はカルテに記入した。「何かお困りのことはありませんか? 夜間は私と、もう一人の看護師が交代で巡回します」。私は首を振り、「いや、大丈夫だ」と答えた。声が少し低くなったのを、自覚した。彼女は軽く頭を下げ、病室を出て行った。足音が、カツ、カツと廊下に遠ざかる。黒ストッキングの脚が、扉の隙間から最後に見えた瞬間、甘い予感が胸に残った。

 夜が深まる。病室の時計は十一時を回っていた。雨音が窓を叩き、静寂を強調する。私はベッドに横になり、天井を見つめた。あの脚線が、脳裏に焼き付いて離れない。白衣の下に潜む、熟れた曲線。恵子の手つきが、肌に残した温もり。五十歳の体は、意外に敏感だ。仕事一筋で、家庭の義務を果たしてきた男が、こんな夜に疼くとは。だが、軽率な行動など取れない。状況が自然に熟すのを待つ。それが、私の生き方だ。

 やがて、廊下から足音が近づいてきた。カツ、カツ。夜勤の巡回だ。恵子のものか、それとも交代の看護師か。扉が静かに開く音が、病室に甘い緊張を運んでくる。視線を向けると、そこに黒ストッキングの脚が、再び現れた。

(第2話へ続く)

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