藤堂志乃

短髪嬢の四重視線(第2話)

この作品は18歳未満の方の閲覧を禁止します。フィクションであり、現実の人物・事件とは一切関係ありません。

## 第2話:短髪を這う指の熱

 スーツの男の指先が、ついに肩に届いた。触れるか触れないかの、微かな間合い。空気の膜が破れるような感触が、肌に波紋を広げる。私は動かず、ただ視線を彼に留めた。プロの矜持が、身体を固定する。だが、心の奥底で、何かが静かに解け始めるのを、否定できなかった。

 部屋の空気が、さらに重く沈む。四隅に控えていた他の三人も、ゆっくりと動き出した。肩幅の広い男が、ベッドの反対側から近づく。ジーンズの擦れる音が、かすかに響く。細身の男は、私の横に滑り込むように位置を変え、穏やかな目の男は足元にしゃがみ込む。四つの影が、私の周りを囲む。言葉はない。ただ、息遣いが、互いに重なり合う。

 スーツの男の指が、肩から首筋へ移る。短髪の生え際を、優しく撫でるように。黒い髪の先が、指の動きに合わせて微かに揺れる。冷たいはずの髪が、熱を帯びる錯覚。私の首が、無意識にわずかに傾く。触れられた部分から、じんわりと温もりが広がり、胸の奥に灯っていた火が、息を吹き込まれたように膨張する。プロとして応じる──それだけのはずだ。指を絡め、微笑を浮かべる。だが、内側で蠢く感情は、甘い渇望の予感を運んでくる。

 「綺麗な髪だ」とスーツの男が、初めて低く呟いた。声は抑え気味で、部屋の静寂に溶け込む。指が短髪の輪郭をなぞる。耳の後ろ、鋭く跳ねる部分を、ゆっくりと。私の呼吸が、わずかに浅くなるのを、自覚する。他の男たちの視線が、そこに集中する。肩幅の広い男の手が、反対側の肩に伸びる。同じく、短髪を撫で始める。ごつい指先が、意外に優しく、髪を梳くように。ジーンズの匂いが、かすかに鼻をくすぐる。作業後の汗と、男の体温が混じり、原始的な熱を呼び起こす。

 体が震える。微かな、抑えきれない震え。短髪の感触が、指たちに委ねられるたび、肌の奥が疼く。細身の男の指が、横から首筋に触れる。三本の指が、同時並行に短髪を這う。視線の奥に潜む欲が、触れ合いを通じて伝わる。穏やかな目の男は、まだ足元で待つ。だが、彼の息が、膝の近くで熱く感じられる。四つの視線が、重なり合う。私の短髪を、中心に据えて。

 心の内で、抵抗が溶けゆく。プロの仮面は、まだ保っている。微笑を崩さず、目を細めて応じる。だが、胸の奥で膨らむ渇望は、甘く、執拗だ。この四人の熱が、私の内側を掻き乱す。普段の客とは違う。彼らの沈黙が、互いの欲を増幅させる。指の動きが、短髪から頰へ、鎖骨へ、徐々に広がる。触れられた肌が、火照る。息が、互いに絡みつくように近くなる。

 肩幅の広い男の息が、耳元に届く。熱く、湿った吐息。短髪を撫でる指が、首の後ろで止まる。そこを、軽く押すように。私の背筋が、ぞくりと反応する。細身の男の指は、耳朶を掠め、短髪の隙間を埋めるように。スーツの男は、顎を優しく持ち上げ、視線を正面から捉える。四人目の、穏やかな目の男が、ようやく立ち上がり、私の背後に回る。指が、短髪の後頭部に沈む。髪の根元を、揉むように。

 四つの手が、短髪を中心に、私の身体を包み始める。ゆっくりと、確実に。沈黙の中で、熱が交錯する。私の手が、無意識にスーツの男の腕に触れる。合意の合図のように。プロとして、当然の応酬。だが、心の最深部で、何かが変わりつつある。渇望が、疼きに変わる。この視線、この息、この指の熱が、私を深みに誘う。抵抗は、溶けゆく氷のように、静かに形を失う。

 部屋の空気が、甘く淀む。ラベンダーの香りが、男たちの体臭と混じり、頭をくらくらさせる。街灯の光が、カーテン越しに揺れ、私の短髪に淡い影を落とす。四人の息遣いが、肌に溶け込む。胸の鼓動が、速まる。抑えていた吐息が、漏れ出す。指たちの動きが、わずかに大胆になる。短髪を掻き乱すように、優しく乱すように。

 スーツの男の唇が、耳元に近づく。息だけが、短髪を揺らす。「もっと、感じてくれ」その囁きは、ほとんど聞こえないほど低い。だが、心に響く。他の男たちも、互いに視線を交わす。譲らない、だが調和した欲。私の体が、熱く震える。プロの域を超え、心が自ら彼らに寄り添う瞬間が、近づく。甘い緊張が、部屋を支配する。この渇望が、次なる深みを約束する。

 穏やかな目の男の指が、背中を滑り降りる。短髪から続くラインを、なぞるように。四つの手が、ついに一つになる。私の短髪を、中心に。息の重なりが、体を溶かす。抵抗の最後の欠片が、消えゆく。だが、まだ、何かが待っている。この熱の渦中で、心の奥底で決定的に変わる予感が、胸を締めつける──。

(第3話へ続く)