この作品は18歳未満の方の閲覧を禁止します。フィクションであり、現実の人物・事件とは一切関係ありません。
## 第1話:朝の黒髪、指先の予感
朝の光がカーテンを透かし、遥の黒髪に淡い影を落とす。
三十歳の俺は、毎朝この瞬間を待つ。
ベッドから起き上がり、キッチンへ向かう俺の足音が静かに響く。
遥、二十五歳。妻の名はいつも、胸の奥で甘く疼く。
彼女はカウンターに寄りかかり、コーヒーを注ぐ。
清楚な白いブラウス。裾が腰に沿い、柔らかな曲線を隠す。
黒髪が肩に落ち、端が揺れる。長く、艶やか。触れれば指が絡まるだろう。
俺は息を飲む。毎朝、決まって。
「遥」
声をかける。低く、抑えて。
彼女が振り向く。瞳が細く、微笑む。
「おはよう。今日も早いね」
声は柔らかく、雨後の葉のように澄む。
俺は近づき、背後から腰に手を回す。
黒髪の香りが鼻先をくすぐる。シャンプーの残り香。甘く、微かな花の匂い。
指を髪に滑らせる。一本一本、絹のように滑る。
遥の肩が僅かに震える。
「くすぐったい」
囁きが耳に触れる。熱い息。
俺の胸が熱く疼く。この日常が、愛おしい。
だが、今日。扉のチャイムが鳴る。
平日、午前九時。訪問者は少ない。
遥がエプロンを外す。黒髪を耳にかけ、後ろ姿で玄関へ。
俺はコーヒーカップを握り、様子を窺う。
扉が開く。拓也、二十八歳。俺の友人だ。
血縁はない。ただの幼馴染み。仕事の打ち合わせで寄ったらしい。
長身。鋭い目つき。スーツの襟がきっちり。
「久しぶり、遥さん。相変わらず綺麗だな」
拓也の声。低く、滑らか。
遥が笑う。頰に薄い紅。
「拓也さん。お茶、淹れますか?」
俺たち三人でリビングへ。ソファに腰を下ろす。
話題は仕事。俺のプロジェクト。拓也の提案。
遥がトレイを運ぶ。お茶の湯気が立ち上る。
彼女が拓也の前にカップを置く瞬間。
黒髪が肩から滑り落ち、カップに触れそうになる。
拓也の手が動く。素早く、自然に。
指先が遥の髪に触れる。絡め、優しく払う仕草。
「邪魔だな。この髪」
笑みを浮かべて。視線は遥の瞳に固定。
遥の反応。僅か。視線が揺らぐ。
一瞬、瞳が拓也を捉え、逸らす。
頰が熱を帯びる。薄く、桜色。
俺は見逃さない。胸の奥で、何かが軋む。
「ありがとう」
遥の声。小さく、息が混じる。
指先の感触が、彼女の肌に残ったか。
拓也は俺に視線を戻す。平然と。
「で、プロジェクトの件だが」
話が続く。だが、空気が変わる。
微かな緊張。糸のように細く、張る。
拓也が帰る。午前十一時。
玄関で見送る遥の後ろ姿。黒髪が揺れ、拓也の視線を絡め取るよう。
扉が閉まる音。静寂が戻る。
俺は遥を抱き寄せる。昼前の光が、彼女の髪を輝かせる。
「何かあったか?」
囁く。探るように。
遥が首を振る。瞳を伏せて。
「ううん。ただの挨拶よ」
唇が湿る。僅かに。
俺たちは昼食を摂る。穏やかに。
だが、遥の指がフォークを握る仕草に、迷いがある。
黒髪が皿に落ち、彼女自身が払う。ゆっくりと。
拓也の指を思い出すように。
夕暮れ。俺は仕事へ。リモートだが、外出。
帰宅は夜。街灯が灯る頃。
家路を急ぐ。雨がぱらつき、路地を濡らす。
扉を開けると、遥の声。
「いらっしゃい」
清楚なワンピース。黒髪を後ろで軽く束ね、解けかけ。
夕食の匂い。ワインのグラスが二つ。
食卓で語らう。今日の出来事。
拓也の名が出ない。意図的にか。
食後。ソファで寄り添う。
遥の吐息が深くなる。俺の首筋に熱い息。
彼女の手が俺の胸に滑る。震えが伝わる。
指先がシャツのボタンを外す。ゆっくり、ためらいがち。
俺は遥の黒髪を掴む。引き寄せ、唇を重ねる。
彼女の舌が応じる。甘く、熱く。
体が絡む。ソファが軋む。
遥の肌が火照る。俺を抱く手が、強く、震える。
吐息が耳元で乱れる。「あっ……」
黒髪が俺の肩に広がる。汗で湿り、肌に張りつく。
頂点が近づく。遥の瞳が俺を捉える。
深く、熱く。だが、その奥。
影が宿る。僅かな揺らぎ。拓也の指先を、思い浮かべたか。
俺は気づく。胸が疼く。
夜が深まる。遥の体が俺に沈む。
だが、瞳の影は消えない。
明日の朝、再びあの黒髪が揺れるだろう。
誰の視線に、絡まるのか。
(文字数:1987字)