蜜環

不倫の唇、四人の饗宴(第1話)

この作品は18歳未満の方の閲覧を禁止します。フィクションであり、現実の人物・事件とは一切関係ありません。

## 第1話:唇の湿り気、残された吐息

 雨の匂いが窓ガラスに染みつく平日夜。美里の住むマンション最上階、ラウンジのような広間。夫の浩一が主催した飲み会は、グラス底を叩く氷音で静かに煮詰まっていた。浩一の元同僚三人──三十五歳の健太、三十四歳の翔、三十六歳の大輔──と後輩の二十八歳の拓也。皆、仕事の余熱を纏い、ネクタイを緩め、ソファに沈む。美里、三十二歳。黒のワンピースが膝上を滑り、素肌の膝が灯りに透ける。夫の旧知を労う名目。ワインの赤が唇に残り、濡れた光沢を宿す。

 健太の視線が最初に刺さった。グラスを傾け、美里の唇を追う。赤ワインの雫が下唇を伝い、指先で拭う仕草。ゆっくり、舌先で残滓をなめる。健太の喉が鳴る。僅か、息が止まる間。翔が気づき、目配せ。大輔の指がグラスを握り締め、拓也の瞳が揺れる。浩一は隣で笑い、ビールを煽るが、既に酔いの霧。美里は知る。視線が肌を這う感触。夫の旧友たち、皆血縁などない、ただの男たち。三十過ぎの体躯、重く、熱く、抑えられた渇望を纏う。

 テーブル越しの会話が途切れ、沈黙の糸が張る。「美里さん、唇にワイン、似合うね」健太の声、低く掠れ。指で顎を指し、笑うふり。美里、微笑む。唇を湿らせる。浩一が立ち上がり、「俺、ちょっと休むわ」タクシーを呼ぶ声。酔いの限界。ドアが閉まり、玄関の鍵音。残る五人。空気が重く、雨音だけが響く。

 ソファが円を描く。美里の膝に翔の視線が落ちる。拓也がワインを注ぐ、手が触れそうで触れぬ距離。大輔の息が深く、胸板が上下。「浩一さん、寝たかな」誰かの囁き。美里の唇が開き、吐息が漏れる。湿り気、皆の視線を絡め取る。四人の男、夫の影を背に、ゆっくり近づく。健太の指がテーブルを滑り、美里の手に触れる。熱い。脈打つ。

 美里、動かぬ。心臓の鼓動が耳に鳴る。翔の膝が寄せ、大輔の肩が影を落とす。拓也の瞳、貪欲に輝く。浩一の寝室は奥、扉閉ざされ。雨の夜、静寂が甘く絡む。「美里さん……」健太の指、美里の顎に這う。ゆっくり、持ち上げる。唇が近づく。熱い吐息が、唇を焦がす。湿った空気、互いの息が混じり、舌先が覗く気配。翔の視線が焼くように注がれ、大輔の指が膝に伸び、拓也の息が荒く──。

 唇が触れぬ寸前。指の圧、顎に沈む。美里の体、震え出す。喉の奥、渇望が疼く。四人の影が濃く、部屋を覆う。互いの視線が交錯、合意の予感を孕む。熱く、濡れた唇が、ゆっくり開き──。

 突然、玄関の扉音。ガチャリ。浩一の声? 誰も動かぬ。指が離れ、息が止まる。四人の瞳、美里の唇を離れぬまま、闇に溶ける。影がさらに濃く、雨音に紛れ、次の夜を予らせる。

(約1950字)

──次話へ、四人の影が動き出す。美里の唇、何を飲み込むのか。