緋雨

女装肌の剃毛に寄る吐息(第1話)

この作品は18歳未満の方の閲覧を禁止します。フィクションであり、現実の人物・事件とは一切関係ありません。

## 第1話:視線に溶ける頰の約束

 雨の音が、窓ガラスを静かに叩いていた。平日の夜、街の喧騒は遠く、部屋の中はただ、互いの息づかいだけが微かに響く。三十歳の遥と向き合う私は、二十八歳。血のつながりなどない、ただの出会いから生まれたこの関係。彼女の瞳は、いつも通り深く、静かに私を捉えていた。

 ソファの端に腰を下ろし、グラスを傾ける。琥珀色の液体が喉を滑り落ちる感触が、わずかに体を温める。遥は向かいに座り、膝を揃えて私を見つめている。黒いワンピースが彼女の肩を優しく覆い、首筋の白さが街灯の淡い光に浮かび上がる。言葉はない。必要ない。ただ、視線が絡みつくだけで、空気が少しずつ重くなる。

 最初に触れたのは、数ヶ月前。バーで偶然、隣り合った席。彼女の指がグラスを回す仕草に、なぜか目が離せなかった。あの夜から、時折こうして会うようになった。会話は少なく、沈黙が主役。だが、その沈黙の中に、甘い疼きが潜んでいるのを、私は知っていた。

 今夜も同じ。遥の視線が、私の頰をなぞるように動く。ゆっくりと、熱を帯びて。息が、わずかに乱れる。彼女の唇が微かに開き、吐息が部屋の空気に溶け込む。私はグラスをテーブルに置き、背もたれに体を預ける。心臓の鼓動が、静かに速まる。

 遥が動いた。ソファから身を滑らせ、私の隣に寄る。距離が、十センチほど縮まる。彼女の香水の匂いが、かすかに鼻をくすぐる。ジャスミンとバニラの混ざり合い。甘く、抑制されたもの。私の肩に、彼女の視線が落ちる。首筋へ。鎖骨へ。そして、再び顔に戻る。

「君の肌……綺麗ね」

 初めての言葉。囁きに近い、低い声。遥の指が、ゆっくりと伸びてくる。空気が張り詰め、私の頰に触れる。冷たく、柔らかい感触。指先が、頬骨をなぞる。ゆっくりと、円を描くように。私は動けない。抗えない。この視線に、指に、絡め取られる。

 指が離れる。遥の瞳が、深くなる。彼女の息が、私の耳元に近づく。吐息が、首筋を撫でるように。

「もっと、滑らかにしてあげたいわ。君を……女装させて」

 その言葉に、体が震えた。女装。想像したこともなかった。だが、遥の声に、拒否の言葉は浮かばない。彼女の瞳が、私を捕らえ、逃がさない。静かな部屋で、雨音だけが間を埋める。私は、ゆっくりと頷く。胸の奥が、甘く疼く。熱が、ゆっくりと広がる。

 遥の唇が、微かに弧を描く。微笑みではない。ただの、満足の兆し。彼女は立ち上がり、部屋の隅のクローゼットへ向かう。背中が、細く美しい。ワンピースの裾が、膝で揺れる。引き出しを開け、何かを手に取る。シルクの光沢が、街灯に映える。

 振り返った遥の手には、淡いピンクのドレス。肩紐が細く、裾が膝上まで。女性のもの。私のためのもの。彼女が近づき、ソファの前に立つ。ドレスを、私の膝にそっと置く。布の冷たい感触が、パンツの上から伝わる。視線が、再び絡み合う。

「着てみて。君なら、きっと美しいわ」

 言葉に、力はない。命令でもない。ただの、誘い。私の手が、ドレスに触れる。シルクの滑らかさ。想像が、頭を駆け巡る。女装した自分。遥の視線の下で。肌が、熱を持つ。息が、浅くなる。

 遥は、私の隣に戻る。肩が触れそうで、触れない距離。彼女の指が、再び頰に。撫でる。優しく、執拗に。今度は、耳朶まで。吐息が、耳にかかる。

「肌を、より滑らかに。君の体毛を、すべて剃ってあげる。女の子のように、つるつるに」

 剃毛。その言葉に、背筋がぞわぞわと震える。恐怖ではない。期待。遥の瞳に映る自分。滑らかな肌。彼女の指が、どんな感触になるのか。胸の疼きが、深くなる。私は、目を閉じる。頷く。

 部屋の空気が、熱を帯びる。雨音が、遠くなる。遥の手が、ドレスの裾を持ち上げる。私の膝に、布を滑らせる。試すように。肌が、反応する。鳥肌が立つ。

「今夜から、始めましょうか」

 彼女の声が、静かに響く。ドレスを差し出す手。視線が、熱く絡む。私の胸が、甘く締め付けられる。次なる変化が、すぐそこに。肌の疼きが、静かに、確実に、広がっていく。

(第2話へ続く)

(文字数:約1980字)