この作品は18歳未満の方の閲覧を禁止します。フィクションであり、現実の人物・事件とは一切関係ありません。
## 第1話:オフィスの視線が絡む
オフィスの空気は、平日夜の静けさに淀んでいた。窓の外では街灯がぼんやりと滲み、ビルの谷間に雨の気配が忍び寄る。美咲はデスクで書類をめくりながら、ふと背筋を正した。28歳の彼女は、この部署に配属されて二年。淡いグレーのブラウスが、肩のラインを柔らかく包む。指先がキーボードに触れる音だけが、部屋に響く。
高橋課長の視線を感じたのは、それからだった。35歳の彼は、向かいのデスクでモニターを睨み、時折こちらを向く。視線は鋭くなく、ただ重い。美咲の首筋を、ゆっくりと這うように。息が、わずかに詰まる。彼女は目を伏せ、書類に集中しようとした。だが、心臓の鼓動が、耳元で低く鳴る。課長の存在が、部屋の空気を濃くする。
玲奈が隣の席でため息をついた。25歳の同僚は、黒髪を耳にかけ、唇を軽く噛む。彼女の視線が、美咲の横顔を掠める。美咲は気づかないふりをした。玲奈のスカートが、椅子の上で微かに擦れる音。かすかな、布ずれの響きが、沈黙を裂く。
美香は少し離れた席で、足を組んでいた。26歳の彼女は、赤みがかったリップを塗り直し、鏡を覗く。ふと、課長の方へ目をやる。その視線が、玲奈のと交差する瞬間、美咲は違和感を覚えた。ほんの一瞬、互いの瞳が止まる。言葉はない。ただ、空気が、わずかに揺れる。美香の膝が、ゆっくりと開き、閉じる。オフィスの照明が、彼女の太腿の影を長く伸ばす。
高橋課長が立ち上がった。足音が、絨毯に沈む。美咲の肩が、ぴくりと震える。彼はデスクに寄りかかり、腕を組む。視線が、三人を順に巡る。美咲の胸元に、玲奈の唇に、美香の指先に。沈黙が、肌を熱く撫でる。誰も口を開かない。息の音だけが、微かに重なる。
「美咲」
課長の声は低く、抑揚がない。美咲は顔を上げた。瞳が、真正面で絡まる。心臓が、喉元で跳ねる。「今日の資料、確認が残ってる。残業してくれ」
言葉は事務的だ。だが、視線の重みが、首筋を伝う。美咲は頷くしかなかった。「はい」と声がかすれた。玲奈と美香の視線が、こちらに集まる。玲奈の指が、ペンを握りしめる。美香の息が、わずかに乱れる。
課長は自室へ向かう。背中が、廊下の薄暗がりに溶ける。三人はデスクで動きを止めた。美咲の頰が、じわりと熱を持つ。玲奈の視線が、再び美香のと交わる。短く、熱を帯びて。美香の唇が、微かに湿る。オフィスの時計が、秒針を刻む音だけが、残る。
残業の時間が、静かに流れる。美咲は書類をまとめ、立ち上がった。課長室の扉が、視界に入る。玲奈と美香も、荷物を片付ける。誰も、何も言わない。だが、空気が、互いの体温を運ぶ。美咲の足が、扉へ向かう。玲奈の足音が、後ろから続く。美香の影が、寄り添う。
課長室の扉が、静かに開く。高橋が中から頷く。三人が、中へ滑り込む。扉が、背後で音もなく閉まった。
(第2話へ続く)