篠原美琴

清楚看護師の不倫絶頂(第2話)

この作品は18歳未満の方の閲覧を禁止します。フィクションであり、現実の人物・事件とは一切関係ありません。

## 第2話:額の熱と近づく息遣い

夜勤の病室は、昼間の喧騒から隔絶された静けさに包まれていた。美咲は28歳の看護師として、この時間帯の巡回を淡々とこなすのが日課だ。夫は今頃、寝息を立てているはず。毎晩の電話で「早く帰ってきて」と囁く声が、胸に残る。でも今夜、浩一の病室のドアをノックする手が、わずかに震えた。第1話のコーヒーの温もりが、まだ指先に染みついている。

「佐藤さん、夜間のチェックです。体調はいかがですか?」

浩一はベッドに横たわり、薄暗いランプの光で顔を照らされていた。35歳の体躯は、事故の傷を残しつつも力強い。右腕のギプスは変わらず、シーツが軽く乱れている。彼はゆっくり目を開き、美咲を見る。視線が、いつものように絡みつく。言葉より先に、部屋の空気が重くなる。

「少し熱っぽいかも。測ってくれますか?」

浩一の声は低く、穏やかだった。美咲は頷き、体温計を準備する。電子式のものを耳に当て、ピッと音が鳴るのを待つ。でも、浩一が小さく首を振った。

「耳じゃなくて、直接測ってほしいんです。額で」

美咲は一瞬、躊躇する。夜勤のルールでは許容範囲だが、こんなに近い距離で。浩一の目が、静かに彼女を促す。美咲は水銀体温計を取り出し、消毒してから彼の額に当てる。指先が、浩一の肌に触れる。熱い。昼間の包帯の感触より、もっと生々しい温もり。浩一の息が、美咲の腕に軽くかかる。

体温計を置く間、二人は無言。美咲はベッドの縁に腰を下ろし、浩一の額に手を添える。脈を確かめるためだ。浩一の体温は38度近く。微熱。汗が薄くにじみ、首筋を伝う。美咲の指が、自然にそれを拭う。浩一の目が、細くなる。息遣いが、互いに近づく。美咲の胸が、静かに上下する。

沈黙が、部屋を支配する。浩一の視線が、美咲の唇に落ちる。美咲は夫の顔を思い浮かべる。あの人は、こんな夜に美咲の熱を測ったことはない。穏やかな日常が、急に遠く感じる。浩一の息が、温かく美咲の頰を撫でる。距離は、わずか十センチ。美咲の膝が、シーツに沈む。

「高橋さん」

浩一の声が、囁きのように響く。美咲は手を離さず、目で応じる。浩一の左手が、ゆっくり動き、美咲の肩に触れる。軽く、寄せる仕草。毛布がずれていたのを、直すジェスチャーだ。でも、その手は肩に留まる。美咲は動かない。心臓の音が、浩一に聞こえそう。肩の重みが、心地よい重圧を生む。

ふと、浩一の指が毛布を引っ張り、美咲の膝にかける。無言の動作。まるで、子供のような無邪気さ。でも目は、真剣だ。美咲の唇が、わずかに緩む。軽い笑いが、沈黙の中に浮かぶ。ユーモアのような、息づかいのようなもの。浩一の口角も上がる。二人は、互いの目を見つめたまま、肩を寄せ合う。

美咲の心に、夫への罪悪感がよぎる。この触れ合いは、ただの看護じゃない。浩一の熱が、美咲の体にも伝染しそう。額に当てた手が、ゆっくり滑り、浩一の頰に触れる。髭の感触。固く、男らしい。浩一の息が、深くなる。美咲の指が、首筋をなぞる。ためらいの時間。動けば、踏み出す。止まれば、日常に戻る。

浩一の左手が、美咲の腰に回る。優しく、包むように。美咲は目を閉じない。視線で、合意を確かめ合う。夫の不在が、甘い空白を生む。浩一の唇が、近づく。息が混じり合う距離。美咲の体が、微かに前傾する。期待が、胸を締めつける。唇が触れそうになった瞬間、浩一の指が美咲の髪を優しく梳く。止まる。沈黙の余韻。

「熱、下がるといいな」

浩一の言葉が、静かに落ちる。美咲は頷き、体温計を回収する。立ち上がる時、浩一の目が離れない。ドアに手をかけた美咲の背中に、視線が刺さる。

「高橋さん。また、来て」

美咲は振り返らず、頷く。廊下に出て、壁に寄りかかる。息が乱れている。夫の寝顔が浮かぶのに、浩一の熱い額が離れない。夜勤の残り時間、巡回ごとにあの病室を思う。唇が近づいた感触。次に会う時、何かが変わる予感。体が、熱を持っていた。

(第2話 終わり)