神崎結維

女装美男の野外BL蜜絶頂(第1話)

この作品は18歳未満の方の閲覧を禁止します。フィクションであり、現実の人物・事件とは一切関係ありません。

## 第1話:女装姿で出会った夜の森

夜の森は、静かで少し湿った空気に満ちていた。25歳の悠は、いつものように女装姿でここを散策していた。黒いレースのブラウスに、膝丈のフレアスカート。細身の脚を包むストッキングが、月明かりに淡く光る。化粧は控えめで、唇に薄いピンクを差しただけ。鏡の前で何度も確認したこの姿は、自分自身を少し遠くから見つめるための仮面のようなものだった。

悠は木々の間をゆっくり歩く。足音が落ち葉を踏む音だけが響き、心のざわめきを優しく包み込む。昼間の世界では、ただのサラリーマン。だが夜の森では、境界が曖昧になる。この姿でいる時、誰かに見られるかもしれないという予感が、胸の奥をくすぐる。誰もいないはずのこの場所で、しかし、どこかで視線を感じるような気がした。

ふと、前方から人影が現れた。28歳の知人、拓也だった。二人は数ヶ月前、共通の友人を通じて知り合い、何度か顔を合わせた程度の関係。拓也は背が高く、肩幅の広い体躯で、森の闇に溶け込むようなダークカラーのジャケットを羽織っていた。手には懐中電灯を持ち、悠の姿を捉えると、わずかに足を止めた。

「悠……? こんなところで会うなんて、奇遇だな」

拓也の声は低く、穏やかだった。悠は一瞬、息を詰めた。女装姿を見られるのは、計算外。だが、拓也の表情に驚きはなく、むしろ柔らかな笑みが浮かんでいる。悠は軽く会釈し、声を少し高めに整えて応じた。

「ええ、拓也さんも夜の散策ですか? 森の空気、心地いいですよね」

会話は自然に始まった。拓也は悠の横に並び、ゆっくり歩き出す。二人は以前、バーで少し話したことがあり、共通の趣味である夜の街歩きで意気投合した仲。だが今夜は違う。悠の女装が、空気に微かな緊張を加えていた。拓也の視線が、時折悠の横顔や肩に落ちる。褒め言葉ではない、ただの観察。悠の心臓が、少し速く鳴り始めた。

木々の間を進むうち、話題は森の静けさから、互いの日常へ移った。拓也は仕事のストレスをぼやき、悠は曖昧に相槌を打つ。女装のことは、まだ触れられていない。沈黙が訪れるたび、肩が近く、布ずれの音がする。悠はスカートの裾を無意識に直した。拓也の存在が、温かく重い。

やがて、二人は大きな木の陰に差し掛かった。拓也が立ち止まり、懐中電灯を地面に落とすように置く。月明かりが枝葉を透かし、柔らかな光が二人の顔を照らす。肩が触れ合った。偶然か、意図的か。悠は動かず、拓也の息遣いを感じ取った。温かく、わずかに乱れている。

「この姿、似合ってるよ。まるで森の精みたいな……いや、君は男か女か、どっちでもいいのかもな。僕の目には、ただ魅力的だ」

拓也の言葉は冗談めかしていたが、視線は真剣だった。性別の境界を軽く突くようなその一言に、悠の頰が熱くなる。心の中で、何かが揺れた。知人以上の何か? それとも、この夜の幻? 悠は笑って応じようとしたが、声が出ない。代わりに、拓也の指が悠の肩に軽く触れた。布越しに伝わる感触が、電流のように走る。

「拓也さん……」

悠の声は小さく、息が混じる。拓也の顔が近づき、吐息が頰にかかる。距離はあと少し。森の闇が、二人の輪郭を溶かすように濃くなる。悠の胸に、期待が芽生えていた。この先、何が起こるのか。拓也の次の言葉が、唇が、待ち遠しい。

木陰の緊張が頂点に達した瞬間、拓也が囁いた。

「もっと、近くで話さないか?」

悠の心は、すでに頷いていた。森の奥へ、誘われるように。

(第1話 終わり)