篠原美琴

隣人妻の黒ストッキング温泉絶頂(第2話)

この作品は18歳未満の方の閲覧を禁止します。フィクションであり、現実の人物・事件とは一切関係ありません。

## 第2話:湯煙のストッキング脱ぎ

浩太はチラシを握りしめ、仕事の合間に何度も眺めていた。近所の温泉施設。平日限定の割引が効いていて、気軽に行けそうな距離だ。遥の微笑みが脳裏に浮かぶ。あの無言の差し出し方。彼女も行くと告げた言葉。浩太は迷った末、翌日の夕方、勇気を振り絞って百三号室のチャイムを押した。三十五歳の独身男が、人妻を誘うなど。心臓が早鐘のように鳴る。ドアが開き、遥が現れた。黒いブラウスに膝丈のスカート。今日も黒ストッキングが脚を覆っている。

「遥さん、チラシのお礼に。よかったら、一緒に温泉、いかがですか」

言葉が上ずる。遥は一瞬、目を細め、静かに頷いた。微笑みが浮かぶ。拒否ではない。それが合意のように感じられた。彼女の夫は今週も地方出張中だと、以前の会話で聞いた。空気が軽く震える中、二人はマンションを出た。夕暮れの道を並んで歩く。距離は三十センチほど。肩が触れそうで触れない。遥のストッキングが歩くたび、かすかな光沢を放つ。浩太は視線を逸らし、沈黙を埋めようとする。

「この辺の温泉、初めてなんですけど」

「私も、たまに。リラックスできますよ」

遥の声は穏やか。会話はそこで途切れ、互いの足音だけが響く。浩太の胸に、期待とためらいが交錯する。この女性は隣人。夫がいる。それでも、視線が絡む瞬間が増えた今、ただの挨拶以上の何かを感じずにはいられない。施設に着き、受付を済ませる。男女別の脱衣所で別れ、浩太は湯船へ向かった。湯煙が立ち込める中、遥の姿を探す。内湯は広く、数人の客がまばらに浸かっている。彼女はすでに湯船の端にいた。黒髪を軽くまとめ、肩までお湯に沈めている。素肌が湯気越しに白く浮かぶ。

浩太はゆっくり近づき、隣に腰を下ろした。湯船の縁が二人の肩を隔てるが、距離は二十センチ。熱い湯が肌を包み、汗がにじむ。遥は目を伏せ、静かに湯気を眺めている。浩太も言葉を探すが、出てこない。沈黙が心地よい緊張を生む。ふと、遥の足が湯の中で動く気配。視線を落とすと、脱衣所の記憶がよみがえる。彼女がストッキングを脱ぐ仕草。細い指が膝まで生地を滑らせ、ゆっくりと引き下ろす様子。肌が露わになる瞬間、薄い光沢が湯気の向こうで揺れた。あの光景に、浩太は息を飲んだ。触れていないのに、指先が熱くなる。

湯煙が二人の間を漂う。遥の肩がわずかに浩太の方へ傾く。偶然か。肌が湯で火照り、頰が赤らむ。彼女の視線が上がり、浩太の顔に留まる。瞳に熱が宿っている。好奇心から、期待へ変わったような。浩太の心臓が速まる。この距離で、何を思うのか。夫の不在を知りながら、彼女はここにいる。合意の空気が、静かに満ちていく。肩が軽く触れ合う。布越しではない、素肌の温もり。浩太は慌てて体を引くが、遥は動かない。むしろ、わずかに寄り添うように。

沈黙が続く中、遥の指が湯船の縁をなぞる。浩太の手に近い位置。触れそうで触れない。息遣いが少し乱れる。湯気のせいか、それとも。浩太は喉を鳴らし、言葉を絞り出す。

「気持ちいいですね、ここ」

「ええ……とても」

遥の返事は短く、声に甘さが混じる。視線が再び絡む。今度は逸らさない。彼女の唇がわずかに開き、湯気が吐息のように漏れる。浩太の胸に、ためらいが渦巻く。手を伸ばせば届く距離。だが、踏み込むのを迷う。この沈黙が、関係を変える一歩か。遥の脚が湯の中で軽く動く。ストッキングを脱いだ素肌の感触が、浩太の想像を掻き立てる。滑らかで、温かく、湯に濡れて艶めく。

時間が溶けるように過ぎ、湯上がりロビーへ移る。浴衣姿の二人は、自動販売機の前に並ぶ。浩太が缶コーヒーを二つ買い、一つを遥に差し出す。彼女は無言で受け取り、プルタブを開ける音が響く。ベンチに座り、並んで飲む。言葉はない。ただ、コーヒーの湯気が立ち上る中、互いの視線が交錯する。遥の浴衣の隙間から、素足が覗く。先ほどのストッキングの記憶が、重なる。浩太がふと、自分の缶を彼女の方へ傾ける。無言のシェア。遥の唇が缶に触れた瞬間、軽い笑みが浮かぶ。沈黙の中の、ささやかなユーモア。彼女の目が細まり、浩太の胸に温かさが広がる。

ロビーの時計が七時を指す。帰る時間。遥が立ち上がり、浴衣の裾を直す。

「今日は、ありがとうございました」

「こちらこそ。また」

言葉は短いが、視線に熱が残る。施設を出て、夜道を並んで歩く。肩が今度は確実に触れ合う。マンションが見えてくる頃、遥の息遣いが少し速い。浩太の心に、期待が膨らむ。この親密さは、次に繋がる。部屋に戻れば、何が待つのか。エレベーターの扉が開く瞬間、遥の視線が浩太を捉え、静かに誘うように輝いた。

(第3話へ続く)