緋雨

隣の看護師妻 蜜診絶頂の夜(第1話)

この作品は18歳未満の方の閲覧を禁止します。フィクションであり、現実の人物・事件とは一切関係ありません。

## 第1話:隣人看護師の静かな体温測定

佐藤健一は、ベッドの上で額に手を当てながら、窓の外の夜の闇を眺めていた。三十五歳の独身生活は、こんな風邪の一時にこそ、その孤独を思い知らせる。熱が上がり、喉の痛みが体全体を重くする。薬局に行く気力もなく、ただじっと耐えるしかなかった。

隣の部屋から、かすかな物音が聞こえてくる。壁一枚隔てた向こうに住むのは、美咲という女性だった。三十歳の看護師で、夫は夜勤の多いサラリーマンだという。引っ越してきて半年ほどになるが、挨拶を交わす程度の関係。彼女の存在は、健一にとって日常のささやかな変化だった。白い制服姿で出勤する朝の姿を、時折窓から見かける。それだけだ。

その夜、インターホンが鳴った。健一は体を起こすのも億劫だったが、のろのろと玄関へ向かう。ドアを開けると、そこに美咲が立っていた。白いブラウスに膝丈のスカート、手には小さな紙袋。柔らかな照明の下で、彼女の黒髪が肩に落ち、穏やかな表情が浮かぶ。

「佐藤さん、大丈夫ですか? 壁越しに咳が聞こえて……。私、看護師なので、少し診ましょうか」

彼女の声は静かで、穏やかだった。健一は驚きを隠せなかった。こんな時間に、わざわざ。

「え、あ、すみません。風邪です。熱っぽくて」

「入ってもいいですか? 体温計持ってきました」

健一は頷き、彼女をリビングへ通した。普段は散らかった部屋を、慌てて片付ける間もなく。美咲は自然にソファに腰を下ろし、紙袋から体温計を取り出す。部屋はまるで即席の診察室のようだった。静かな空気が、二人の間に流れる。

健一は彼女の隣に座り、袖をまくる。美咲は体温計を差し出し、そっと彼の脇に挟むよう促した。その指先が、わずかに健一の肌に触れる。冷たく、柔らかい感触。彼女の視線は真剣で、プロフェッショナルだ。だが、健一の胸には、予期せぬ緊張が走った。隣人の女性が、こんなに近くにいる。息遣いが聞こえる距離。

「動かないでくださいね。少し我慢して」

美咲の声は低く、落ち着いている。健一は頷き、視線を床に落とした。体温計の電子音が、静寂を破るのを待つ。彼女の香り――石鹸のような清潔な匂いが、かすかに漂う。夫の存在を思い浮かべ、健一は自分を戒める。彼女はただの親切な隣人だ。それなのに、心臓の鼓動が速くなる。

時間はゆっくりと過ぎた。美咲は体温計を見つめ、時折健一の顔を覗き込む。その視線に、健一は耐えきれず目を逸らす。彼女の横顔は、穏やかだがどこか繊細で、看護師の制服を想像させる曲線が、ブラウス越しにほのかに浮かぶ。熱のせいか、それともこの近さか。空気が、微かに重くなる。

ピッという音が響き、美咲が体温計を抜き取った。三十八度五分。彼女は眉を寄せ、紙袋から薬を取り出す。

「これは高いですね。薬、飲みましたか? あと、水分を多めに」

健一は頷きながら、彼女の手元を見る。その時だった。美咲が体温計をテーブルに置こうとして、手を滑らせた。体温計が床に落ち、カランと音を立てる。二人は同時に顔を見合わせた。

「あっ……」

美咲の頰が、わずかに赤らむ。健一も思わず口元を緩め、拾おうと手を伸ばす。だが、二人の手が重なりそうになり、慌てて引っ込める。無言のまま、美咲が体温計を拾い上げ、息を吐いた。

「すみません、緊張しちゃって」

彼女の言葉に、健一は小さく笑った。静かな部屋に、初めての軽やかな空気が生まれる。プロの看護師が、こんな小さなミスをするなんて。互いの視線が絡み、すぐに逸らす。その一瞬で、何かが変わった気がした。距離が、ほんの少し近づいた。

美咲は薬の説明を続けながら、健一の肩に軽く手を置いた。熱を確かめる仕草だ。指先の温もりが、布越しに伝わる。健一は息を潜め、その感触を意識する。彼女の目は穏やかだが、奥に好奇心のようなものが揺れている。夫のいない夜、隣人の体温を測るこの行為が、二人にとって特別なものになりつつある。

「明日も熱が下がらなかったら、また来ますね。ちゃんと休んでください」

美咲が立ち上がり、玄関へ向かう。健一は彼女を見送りながら、胸のざわめきを抑えきれなかった。体温計の感触が、まだ肌に残っている。彼女の足音が廊下に遠ざかる中、健一はベッドに戻り、天井を見つめた。明日、再びあの静かな診察が訪れるかもしれない。その予感が、熱以上に体を熱くさせる。

(第2話へ続く)