三条由真

義姉の視線に絡まる女装弟(第2話)

この作品は18歳未満の方の閲覧を禁止します。フィクションであり、現実の人物・事件とは一切関係ありません。

## 第2話:褒めの罠とスカートの熱

 遥の部屋のドアが、静かに閉まる音が響いた。拓也の心臓は、まだ第1話の余韻を引きずったまま、激しく鳴り続けている。雨音が窓ガラスを叩く中、部屋の中は柔らかな間接照明が広がり、ベッドサイドのランプが暖かな橙色を投げかけていた。空気は彼女の香水の残り香で満ち、ワインの微かな酸味が混じる。遥はドアの鍵をかけ、ゆっくりと振り返る。その視線が、再び拓也──ゆかりの姿を、頭から足元まで、ねっとりと這い上がる。

「座りなさい。ゆかり」

 遥の声は穏やかで、命令調でないのに、拒否を許さない響きがある。彼女はベッドの端に腰を下ろし、拓也を手招きする。拓也は一瞬、足を止める。女装姿の自分が、彼女の部屋にいるという現実が、甘いめまいを呼び起こす。優位に立てるかもしれない──そんな淡い期待が、胸の奥で膨らむ。褒められたのだから。彼女の視線は、好奇心に満ちているように見える。拓也はゆっくりと近づき、ベッドの反対側に腰掛ける。スカートの裾が膝上でふわりと広がり、ストッキングの光沢がランプに映える。

「本当に、可愛いわ。こんな姿、想像もしてなかった」

 遥の言葉が、柔らかく落ちる。彼女はワイングラスを再び手に取り、軽く口に運ぶ。唇がグラスの縁を湿らせる様子が、拓也の視線を奪う。褒め言葉だ。拓也の胸に、僅かな優越感が芽生える。女装の魅力で、彼女を翻弄できるかもしれない。ゆかりとして、もっと大胆に振る舞おうか──指先でウィッグの髪を弄び、唇を軽く湿らせる。

「ありがとう、姉さん。実は、時々こうやって……自分を解放してるの。男の姿じゃ味わえない、特別な感覚よ」

 拓也の声は、女装時の柔らかなトーンを保ち、わざと甘く響かせる。遥の反応を窺う。彼女の瞳が、わずかに細くなる。褒めているはずの視線が、変わり始める。肌を這うように、熱を帯びてくる。ブラウス越しに胸元をなぞり、腰のラインへ。まるで、布地の下の曲線を指で描くように。拓也の背筋に、ぞくりとした感覚が走る。優位かと思ったのに──主導権が、僅かに傾き始める。

「解放、ね。ふふ、面白いわ。あなたの中の『ゆかり』は、どんな秘密を抱えてるのかしら」

 遥がグラスをテーブルに置き、体を寄せてくる。距離が縮まり、息づかいが聞こえるほどに。彼女の膝が、拓也の膝に軽く触れる。偶然か、意図か。部屋の空気が、重く淀む。拓也は視線を逸らそうとするが、遥の瞳に捕らわれる。そこに、冷たい光と熱い渇望が、同時に宿っている。どちらが相手を試しているのか、分からない。沈黙が、息を詰まらせる。雨音だけが、間を埋める。

 遥の指先が、ゆっくりと動く。拓也の肩に触れ、ブラウス生地の感触を確かめるように滑る。優しい圧力。肌が、熱くなる。「このブラウス、素敵ね。レースの感じが、あなたの肌にぴったり」言葉は褒めなのに、指の動きは探るようだ。拓也の心臓が、速まる。抵抗しようと、手を上げかけるが、遥の視線がそれを封じる。瞳の奥で、主導権を奪おうとする気配が、濃厚に漂う。

「姉さん、ちょっと……待って」

 拓也の声が、かすれる。だが、体は動かない。遥の指が、肩から腕へ、肘へ。ゆっくりと降りてくる。互いの息が、混じり合う距離。彼女の吐息が、拓也の耳朶をくすぐる。熱く、湿った空気。拓也は反撃を試みる。自分の手で、遥の髪に触れる。ストレートの艶やかな感触を指で梳き、「姉さんも、綺麗よ。こんな夜に、ワインを飲んで待ってるなんて……誘ってるの?」言葉で主導権を奪い返そうとする。遥の瞳が、一瞬揺らぐ。均衡が、凍りつく。

 だが、次の瞬間、遥の笑みが戻る。より深く、危険な弧を描いて。「誘ってる? かもね。ゆかりの秘密を、全部知りたくて」彼女の声が、低く囁く。指先が、ついにスカートの裾に滑り込む。膝の上で、ストッキングの縁をなぞる。ひやりとした感触が、太ももへ伝わる。拓也の抵抗が、甘く溶け始める。体が、熱く疼く。押しのけようとする手が、逆に彼女の腕を掴む形になる。主導権の綱引き。視線が絡みつき、どちらも折れない。

 遥の体が、さらに寄る。胸が触れそうな距離。彼女の唇が、拓也の首筋に近づく。息が、肌を焦がす。「このスカートの下、何を隠してるの? 教えて、ゆかり」言葉の圧力が、心理を締めつける。拓也の息が、乱れる。女装の魅力で翻弄しているはずが、遥の視線と言葉に、境界が曖昧になる。指が、スカートの内側へ僅かに侵入。ストッキングのレースの感触を、優しく押す。甘い疼きが、下腹部へ広がる。抵抗は、囁きに変わる。「姉さん……そんなに、知りたがるなんて……」

 沈黙が、再び訪れる。互いの瞳が、激しく交錯する。遥の指が、止まる。スカートの裾を軽く摘み、持ち上げる仕草。拓也の視線が、そこに落ちる。熱い視線が、肌を這う。どちらが折れるのか──均衡が、危うく揺れる。遥の唇が、拓也の唇に近づく。触れ合う寸前。息が、混じり合う。熱く、濃厚な空気。彼女の瞳に、勝利の予感と、渇望が宿る。「君の秘密、全部知りたいわ。ゆかり……」

 唇が、僅かに触れそうになるその瞬間──遥が、ぴたりと止まる。視線だけが、深く絡みつく。部屋に、雨音と二人の息づかいだけが残る。主導権は、まだ奪われていない。だが、拓也の体は、甘く熱く疼き続けている。この先、どちらが操るのか。均衡の糸が、張りつめる。

(第3話へ続く)