神崎結維

取引先の視線に溶けるグラビアお姉さん(第1話)

この作品は18歳未満の方の閲覧を禁止します。フィクションであり、現実の人物・事件とは一切関係ありません。

## 第1話:ミーティングルームの微かな熱気

 平日の夕暮れ、窓ガラス越しに街の喧騒が遠く霞むオフィスビル。拓也は三十歳の営業マンとして、数えきれないミーティングをこなしてきた。今日の取引先は、グラビア雑誌やウェブメディアで活躍する女性タレントのマネジメント会社だ。エレベーターの扉が開くと、廊下の空気が少し甘く、柔らかな香水の残り香が漂っていた。受付の女性に案内され、拓也は会議室のドアをノックする。

 中に入ると、テーブルの向こうに彼女がいた。美香、二十八歳。グラビアアイドルとして知られる女性で、今回の契約更新を巡る打ち合わせの担当者だ。彼女はゆったりとした白のブラウスを着こなし、下にタイトなスカートが豊満なヒップラインを優しく包み込んでいる。生地が肌に沿う様子は、まるで意図的に強調されたかのよう。胸元が微かに開き、谷間の影が柔らかな曲線を描いていた。拓也の視線が一瞬、そこに留まるのを、彼女は気づいているだろうか。

「こんにちは、拓也さん。初めまして、美香です。今日はよろしくお願いしますね」

 彼女の声は低く、甘い響きを帯びていた。微笑みながら手を差し出し、拓也は握手に応じる。その指先は細く温かく、わずかな湿り気を残して離れた。座席に着くと、資料を広げながらビジネスが始まる。広告キャンペーンのスケジュール、露出率のデータ、予算配分。拓也は淡々と説明を進めるが、視線が何度も彼女の顔や首筋に引き寄せられる。

 美香は資料に目を落としながら、時折顔を上げてこちらを見る。その瞳は深く、黒い輝きを湛えていて、まるで拓也の言葉の裏側を探るように。彼女の唇が軽く動くたび、息が漏れるような間が訪れる。「このプラン、魅力的ですね。でも、もう少し……私のイメージに寄せていただけるかしら?」彼女の言葉はビジネスライクだが、声の端に甘さが混じる。テーブルの下で、彼女の膝がわずかに拓也の方へ寄る。偶然か、意図か。スカートの裾が微かにずれ、ストッキングの光沢が露わになる。

 拓也の胸がざわつく。三十歳を過ぎ、仕事に慣れたはずの自分が、こんな初対面で動揺するとは。彼女の存在が、空気を重く、熱く変えていく。ブラウス越しに揺れる胸の膨らみ、首筋に浮かぶ淡い汗の粒。夕暮れの光が窓から差し込み、彼女の肌を黄金色に染める。拓也は資料に視線を戻すが、心臓の鼓動が速まるのを感じる。彼女の視線が、こちらの指先を、喉元を、なぞるように這う。ビジネス話の裏で、何かが静かに蠢いている。

「拓也さんの提案、気に入りました。次のフェーズで、もっと深く話しましょう」

 美香が身を乗り出し、資料を指差す。その瞬間、彼女の腕が拓也の手に触れる。ほんの一瞬、柔らかな肌の熱が伝わる。電流のような震えが、拓也の指を駆け巡る。彼女は気づかぬふりで体を引くが、瞳の奥に微かな揺らぎが宿る。笑みが深くなる。境界が、溶けそうで溶けない。彼女はグラビアアイドルとして、カメラの前で無数の視線を浴びてきたはずだ。それなのに、この視線は特別か? 拓也の心に、曖昧な疼きが芽生える。これは仕事の延長か、それとも……。

 ミーティングは予定通り進み、契約の方向性が固まる。美香は立ち上がり、ゆっくりと手を差し出す。「今日はありがとうございました。また連絡しますね」握手する彼女の指が、再び温かく絡みつくように。離れる瞬間、彼女の唇がわずかに開き、息が漏れる。柔らかな笑みが、拓也の胸に焼きつく。

 部屋を出た拓也は、エレベーターで一人、鏡に映る自分の顔を見る。頰が上気している。彼女の香りが、まだ袖に残る。あの視線、あの熱は、何だったのか。取引先のグラビアお姉さん。境界の向こうに、何が待つのか。夜の街灯が、ぼんやりと拓也の足元を照らす中、心のざわめきは静まらない。

(第1話完/次話へ続く)