神崎結維

上司の膝で揺れる日焼け甘え(第1話)

この作品は18歳未満の方の閲覧を禁止します。フィクションであり、現実の人物・事件とは一切関係ありません。

## 第1話:海帰りの肌に絡む視線

夏の終わりを告げるような蒸し暑い午後、私はオフィスのデスクに戻っていた。連休明けの平日、窓の外は灰色の雲が低く垂れ込め、街の喧騒を遠くに押しやる。海辺の別荘で過ごした三日間が、肌に残る日焼けの跡として、私の身体に刻まれていた。肩から腕にかけての黄金色のコントラストが、ブラウス越しにぼんやりと浮かび、鏡を見るたび自分の肌が他人事のように感じられた。

「随分と焼けたな。健康的でいいじゃないか」

高槻課長の声が、背後から静かに響いた。振り返ると、彼はいつものようにデスクに肘を預け、私の肩口を眺めていた。三十代後半の彼は、細身のスーツがしっくりと馴染み、ネクタイを少し緩めた姿が、残業の気怠さを纏っていた。オフィスはすでに閑散とし、他の同僚たちは定時で帰宅した後。空調の低い唸りと、キーボードの音だけが、空間を満たしていた。

「ありがとうございます。海で少し羽を伸ばしすぎちゃいました」

私は軽く笑って応じ、首筋を指でなぞった。日焼け止めを塗り忘れたラインが、水着の跡のようにくっきり残り、それが妙に生々しい。課長の視線が、そこに留まるのを意識しながら、私は資料をめくる手を止めた。彼の目は、褒め言葉の裏に、何か別の熱を宿していたように見えた。いつも通り、つかみどころのない視線。業務の指示か、それとも……。境界が曖昧で、心臓の鼓動が少し速くなった。

「その肌、触ってみたくなるな。オイルでも塗ってやろうか」

冗談めかした言葉に、私は息を飲んだ。課長は立ち上がり、私の隣の椅子に腰を下ろした。残業の資料確認のはずが、距離が急に近づいた。オフィスの照明が彼の横顔を柔らかく照らし、夕暮れの光が窓から差し込んで、日焼けした私の腕に影を落としていた。彼の指先が、肩のブラウスに軽く触れた。布地越しに伝わる熱が、肌の表面を震わせた。

「課長……」

声が掠れた。触れられた部分が、じんわりと疼き始めた。海の塩の記憶と混じり、身体の芯が緩むような感覚。彼の手は、ただ肩を撫でるだけで、決して強くないのに、指の腹が日焼けの境目をなぞるように動いた。健康的だと言った彼の言葉が、今は甘い響きを帯びて耳に残る。私は視線を逸らさず、彼の目を見つめ返す。そこに、業務上の親しみ以上のものが揺れているのか、それとも私の錯覚か。曖昧な熱が、二人の間に漂っていた。

オフィスはさらに静かになり、外の雨音がぽつぽつと聞こえ始めた。残業の資料は、すでに片付いたはずなのに、課長は私の隣に留まっていた。私も、立ち去る気になれない。膝が、微かに震えていた。寄りかかりたい衝動が、胸の奥から湧き上がってきた。彼の膝に、頭を預けたらどんな感触だろう。日焼けした肌が、彼のスーツに擦れる想像が、頭をよぎる。赤ちゃんのように甘えるなんて、ありえないのに……その疼きが、甘く身体を蝕む。

「今日は遅くなるな。二人きりで、ゆっくり資料を見直そうか」

課長の声が、低く響く。手が肩から離れず、代わりに私の髪を軽くかき上げる。日焼けの首筋が露わになり、彼の息づかいが近く感じられた。境界が、溶けそうで溶けない。恋の予感か、ただの夏の気の迷いか。本心を明かさない彼の瞳に、私は自分の熱を映す。オフィスの空気が、重く甘くなる。

雨が本降りになり、窓ガラスを叩く音がリズムを刻む。私はデスクに肘をつき、課長の横顔を盗み見た。彼の指が、再び私の腕に触れる。日焼けのコントラストを、親指で優しく押すように。「家に帰る前に、もっと褒めてやるよ」と、そんな言葉が、かすかに漏れた。家……彼の家か、それとも。曖昧な誘いが、胸に疼きを残す。

残業の終わりが近づく頃、課長は立ち上がり、傘を手に取った。「雨が強いな。送ってやるよ。……いや、うちで一杯やるか?」その言葉に、膝の疼きが頂点に達する。家に招かれる予感が、夏の夜をさらに熱くする。

(約1950字)

※次話へ続く