緋雨

足視線の甘い束縛(第2話)

この作品は18歳未満の方の閲覧を禁止します。フィクションであり、現実の人物・事件とは一切関係ありません。

## 第2話:エレベーターの囁き

 翌日の平日、夕暮れの雨がアパートの外壁を叩いていた。遥は自室のドアを静かに閉め、エレベーターへ向かう。昨夜の疼きが、まだ肌の奥に残る。足音の記憶が、歩くたび足裏に蘇る。素足のままスリッパを履かず、廊下の冷たい床に爪先が触れる感触。彼女の足は細く、静かな歩みで進む。

 エレベーターの扉が、淡い光を放ちながら開いた。遥の息が、わずかに止まる。そこに、拓也が立っていた。32歳の隣人。血のつながりのない、ただの隣人。黒いシャツに細身のパンツ、足元はほぼ裸足のサンダル。昨日、隙間から見たあの足が、すぐ目の前にあった。

 視線が、交錯する。拓也の瞳が、遥の顔を捉え、ゆっくりと下へ落ちる。彼女の足元へ。素足が床に触れる姿に、静かな沈黙が流れる。エレベーターの空気が、重くなる。遥の心臓が、激しく速まる。昨夜の熱が、再び肌をざわめかせる。

 拓也が、わずかに体を寄せる。扉が閉まり、狭い空間が二人を閉じ込める。機械の低い唸りが響く中、彼の視線が足に固定される。足指の微かな動き。踵の丸み。雨の湿気が、肌を柔らかく湿らせる。

 「その足……」

 拓也の声が、静かに落ちる。低く、抑えた響き。遥の息が、浅くなる。視線を上げると、彼の瞳が穏やかだが、熱を帯びている。

 「触れたくなるほど、繊細だ」

 言葉が、エレベーターの壁に反響する。遥の頰が、熱を持つ。足の甲が、ぴくりと震える。あの言葉が、肌に染み込む。触れたくなる。繊細。想像が、膨らむ。彼の指が、この足に落ちる感触。温かく、ゆっくりと這う。

 沈黙が、続く。拓也の足が、わずかに動く。サンダルの縁から覗く裸足の先が、遥の足に近づく。数センチの距離。互いの足音の記憶が、重なる。昨夜のトン、トン。今日のこの近さ。空気が、甘く張り詰める。

 遥の唇が、乾く。息を吐くと、微かな熱気が彼の肌に届く気がする。拓也の視線が、足指をなぞるように動く。ゆっくりと、足裏のアーチへ。彼女の足が、無意識に寄り、爪先が彼の足に触れそうになる。距離が、縮まる。一ミリ、二ミリ。床の冷たさが、二人を繋ぐ。

 「こんなに細くて、柔らかい肌……見ているだけで、指が疼く」

 再び、言葉が囁かれる。言葉責め。静かだが、鋭く心を刺す。遥の胸が、上下する。息が乱れ、太ももに熱が集まる。足の裏が、じんわりと湿る。想像が、止まらない。彼の足が、この足を包む。指が絡み、肌が擦れ合う。息が混じり、静かな摩擦の音。

 エレベーターが、揺れる。一階に近づく。拓也の足が、わずかに前へ。遥の足に、影を落とす。触れそうで、触れない。緊張が、肌を甘く疼かせる。彼女の指先が、握りしめられる。視線が、下へ落ちる。彼の足も、美しい。長い足指、緩やかな曲線。サンダルの革が、肌を締めつけるように見える。

 「君の足は、ただ立っているだけで、誘うように震えている」

 声が、再び響く。遥の喉が、鳴る。息が熱く、唇を湿らせる。互いの足の距離が、最も近い。爪先が、かすかに空気を揺らす。触れれば、どんな感触か。滑らかで、温かく、わずかな硬さ。彼女の肌が、ざわめく。胸の奥で、疼きが膨らむ。

 扉が、開く。外の雨音が、流れ込む。拓也の視線が、ようやく遥の顔へ戻る。穏やかな微笑。言葉は、もうない。ただ、沈黙の余韻。遥の足が、動けない。拓也が、先に降りる。彼の足音が、トン、トンと遠ざかる。

 遥は、エレベーターから出る。廊下の冷たい床に、素足が沈む。足の裏に、彼の視線の熱が残る。言葉が、耳に反響する。触れたくなるほど、繊細。誘うように震えている。自室へ向かう足取りが、重い。ドアを開け、閉める。部屋の静けさが、迎える。

 ソファに腰を沈め、息を吐く。足を、眺める。細く、繊細な自分の足。拓也の言葉が、肌を這う。指が、無意識に足首へ落ちる。ゆっくりと、撫でる。熱が、太ももへ広がる。息が、浅く乱れる。疼きが、募る。ドア越しに、雨音だけが響く中、遥の肌は甘く震え続ける。

(第2話 終わり)