久我涼一

取引先妻のオフィス密着(第2話)

この作品は18歳未満の方の閲覧を禁止します。フィクションであり、現実の人物・事件とは一切関係ありません。

## 第2話:ランチの視線

数日後の平日昼下がり、オフィスの空調が淡々と回る中、藤原浩二はデスクでメールをチェックしていた。あの指先の温もりが、仕事の合間にふと蘇る。妻の顔が脳裏に浮かぶが、それは資料の数字にかき消されるように過ぎ去る。取引先との打ち合わせが、このところ頻繁になっていた。新プロジェクトの進捗確認のため、鈴木恵子とのミーティングは週に二度、三度と増え、毎回彼女の落ち着いた視線が浩二の意識をわずかに乱す。

今日も午前中の短いオンラインミーティングで一区切りついた後、恵子から提案があった。「藤原さん、近くのラウンジでランチでもいかがですか? 細かい数字をゆっくり確認しましょう」。浩二は一瞬迷ったが、業務の延長として頷いた。オフィス街の喧騒を抜け、二人はガラス張りのラウンジに入る。平日昼の店内は、サラリーマンやOLのグループがまばらに座り、静かなBGMが流れる。窓際の席に腰を下ろすと、恵子のジャケットの袖口から覗く細い手首が、浩二の目を引いた。

「ここ、静かでいいですね。いつもオフィスで詰め込んで話すより、ゆっくり話せます」

恵子がメニューを広げながら微笑む。注文したサラダとパスタが運ばれてくると、二人は自然にプロジェクトの話題から入った。彼女のフォークが皿を滑る音、グラスの水滴が光を反射する様子。浩二は資料の数字をタブレットで示しながら、恵子の反応を窺う。彼女の瞳が画面に集中し、時折浩二の顔に移る。その視線は、業務の確認を超え、互いの表情を丁寧に探るようだった。

ランチが進むにつれ、話題は少しずつ個人的な色を帯び始めた。「藤原さん、いつも残業が多いんですか? ご家族はご心配じゃないですか」。恵子の質問は穏やかで、仕事の合間の世間話のように自然だった。浩二はフォークを置き、コーヒーを一口飲んだ。「妻とは15年目ですけど、子供がいないんで、互いに仕事中心。ルーチンが安定してる分、刺激が少ないんですよ」。言葉を吐き出すと、胸の奥に溜まっていた日常の重みが、少し軽くなる気がした。

恵子は頷き、自身の皿を眺めながら応じた。「私もです。夫とは結婚12年、子供はいません。マーケティングの仕事が忙しくて、二人とも家に帰っても疲れて会話が少なくて……。でも、それが普通だと思って諦めてました」。彼女の声は低く、視線をグラスに落とす。浩二はそこで、彼女の指が結婚指輪を無意識に回す仕草に気づいた。同じような日常の隙間を共有する瞬間、二人の視線が絡み合う。恵子の瞳に、静かな共感と、それ以上の何かが揺らめく。浩二の胸に、抑えきれない熱がゆっくりと広がった。妻の夕食の支度を思うが、それはラウンジの柔らかな照明に溶け込むように遠のく。

食事が終わり、会計を済ませて店を出る頃、外は曇天で街灯が早めに灯り始めていた。恵子のオフィスは浩二の会社から少し離れたビルで、帰り道に浩二が「車で送りますよ」と提案した。彼女は一瞬躊躇ったが、「ありがとうございます」と微笑んで同乗した。浩二のセダンは平日午後の道路を滑るように進む。助手席の恵子はシートに体を預け、窓外のビル群を眺めている。信号で停車した瞬間、二人の肩がわずかに触れ合った。ジャケット越しに伝わる柔らかな圧力、彼女の体温が布地を通じて染み込む。浩二はハンドルを握る手に力を入れ、視線を前方に固定した。

「藤原さん、今日の話、参考になりました。また次回の打ち合わせで詳しく。」

恵子の声が車内に響く。浩二は頷き、「こちらこそ。家庭の話も、意外と似てますね」と返す。肩の触れ合いが続く距離、互いの吐息が静かな車内に満ちる。赤信号が青に変わり、車が動き出すが、その温もりは残った。恵子のオフィス前に着き、浩二はエンジンを切った。彼女がドアを開けようとする瞬間、再び視線が絡む。恵子の唇が微かに開き、「また会いましょう、藤原さん」と囁くように言った。その言葉に、穏やかな笑みが添えられる。浩二の胸に、禁断の期待が甘く疼くように膨らんだ。彼女の背中がビルに消えるのを、浩二はシートから見送った。妻の待つ家路へ車を走らせるが、肩に残る感触が、次なる衝動を静かに予感させる。

(第3話へ続く)