久我涼一

取引先妻のオフィス密着(第1話)

この作品は18歳未満の方の閲覧を禁止します。フィクションであり、現実の人物・事件とは一切関係ありません。

## 第1話:資料の温もり

平日の夕暮れ、オフィスの窓辺に沈む陽光が、ガラス張りの壁に淡い橙色を投げかけていた。藤原浩二、38歳、既婚。この会社の営業部長として10年を数える男は、デスクの向こうで資料をめくる同僚たちの姿を、いつものように淡々と眺めていた。妻との結婚生活は15年目、子供はいない。毎日のルーチンは変わらず、朝のコーヒー、電車、ミーティング、そして帰宅後の静かな夕食。刺激など、とうに日常の奥底に沈んでいた。

今日のミーティングは、取引先の鈴木恵子氏、36歳、既婚者で、相手会社のマーケティング担当。事前のメールでしか知らなかった名刺交換の相手だ。浩二は時計に目をやり、午後6時を過ぎた頃合いを確かめた。残業の気配がオフィスに漂い始め、他の社員たちが片付けを始める中、会議室のドアが静かに開いた。

「失礼します。鈴木です。お待たせしました」

声は低く、落ち着いた響き。入室した女性は、黒のテーラードジャケットに膝丈のスカート、足元は控えめなパンプス。肩まで伸びた黒髪を耳にかける仕草が、自然で洗練されていた。36歳とは思えぬ、柔らかな輪郭の顔立ち。目元に微かな笑みを浮かべ、浩二の前に座る。名刺を差し出しながら、彼女の視線がまっすぐに絡む。

「藤原です。こちらこそ、平日遅くにありがとうございます」

浩二は名刺を受け取り、軽く頭を下げた。ミーティングは新プロジェクトの仕様確認。画面共有の資料を進めながら、恵子の視線が資料の数字を追う様子に、浩二の意識がわずかに揺れた。彼女の指先がタブレットを滑る動き、首筋に落ちる髪を払う仕草。すべてが、仕事の緊張を帯びつつ、どこか余裕を感じさせる。オフィスの空調が静かに唸る中、彼女の吐息が微かに聞こえる距離。

「この部分、弊社のデータでは前年比15%増ですが、ご提案の調整で10%に抑えられますか?」

恵子の質問に、浩二は頷きながらグラフを拡大した。彼女の瞳が画面に集中し、時折浩二の方へ移る。その視線は、単なる業務確認以上のものを湛えていた。落ち着いた口調の裏に、仕事のプレッシャーを共有するような、静かな親近感。浩二の胸に、日常の延長線上で生まれる微かな熱が、ゆっくりと灯り始めた。妻の顔が一瞬脳裏をよぎるが、それはすぐに資料の数字に掻き消された。

ミーティングは1時間ほどで一区切り。他の社員たちはすでに帰宅し、オフィスは静寂に包まれていた。外はすっかり暗く、街灯の光が窓ガラスに反射する。浩二はプリントアウトした追加資料をまとめ、恵子に手渡そうと席を立った。

「これ、追加の試算です。後ほど確認いただけますか」

恵子も立ち上がり、資料を受け取る。その瞬間、二人の指先が触れ合った。浩二の右手の甲に、彼女の細い指が軽く重なる。ほんの一瞬、だがその温もりは、紙の冷たさとは対照的に、柔らかく残った。恵子の指は細く、爪は短く整えられ、ほのかにフローラルな香りが漂う。浩二は反射的に視線を上げ、恵子の目と合った。彼女の瞳に、わずかな揺らぎ。仕事の余韻か、それとも。

「あ、すみません」

恵子が小さく息を吐き、指を引く。だが、その動きは慌てたものではなく、むしろゆっくりとした。浩二の肌に、彼女の体温が染みつくように残る。オフィスの蛍光灯が二人を照らし、廊下の足音はすでに途絶えていた。残業で二人きり、互いの結婚指輪が光を反射する。

「いえ、大丈夫です。では、こちらで失礼しますか」

浩二は平静を装い、資料を閉じた。恵子は頷き、ジャケットの裾を直す。立ち去る彼女の背中を、浩二はデスクから見送った。ドアが閉まる音が響き、オフィスに静けさが戻る。指先に残る温もりだけが、次なる何かを予感させる。妻が待つ家路を思う浩二の胸に、抑えきれない疼きが、ゆっくりと広がり始めた。

(第2話へ続く)

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