南條香夜

上司の腕に溶けるコスプレ旅行(第1話)

この作品は18歳未満の方の閲覧を禁止します。フィクションであり、現実の人物・事件とは一切関係ありません。

## 第1話:車窓の信頼と旅館の予感

 平日の夕暮れ、会社の駐車場に停めた上司の車に、私はそっと荷物を積み込んだ。28歳の私、佐倉美咲は、この部署に配属されてから七年。45歳の部長、藤原隆司氏とは、長年にわたる信頼で結ばれた関係だった。彼はいつも穏やかで、部下の迷いを優しく受け止めてくれる人。仕事のプレッシャーが重くのしかかった時も、彼の落ち着いた声が、私の心を静かに支えてくれた。

「美咲さん、準備は大丈夫か?」

 運転席から顔を覗かせ、彼の柔らかな笑みが私を迎える。スーツの上からでもわかる、がっしりとした肩幅。年齢を感じさせない、静かな存在感に、胸の奥が少しだけ温かくなる。

「はい、部長。お任せください。温泉旅行、楽しみです」

 私は助手席に滑り込み、シートベルトを締めた。会社の恒例行事とはいえ、今年は参加者が少なく、私と部長を含めて数名だけ。部長が運転を申し出てくれたのは、いつもの気遣いだろう。エンジンが静かに唸りを上げ、車は街の灯りを背に高速道路へ滑り出す。

 窓外の景色が、夕闇に溶けていく。平日ということもあり、道路は穏やかだ。ラジオから流れるジャズのメロディーが、車内を優しく満たす。私はシートに体を預け、自然と部長の横顔を見つめた。整った輪郭、わずかに白髪の混じる短髪。仕事モードの時とは違い、リラックスした表情が、どこか親しみを増す。

「最近、忙しかったろう。プロジェクトの締め切り、よく乗り切ったな」

 彼の声は低く、優しい。ハンドルを握る手は大きく、手つきが安定している。あの手が、私の肩に触れた時の感触を、ふと思い出す。昨年、遅くまで残業した夜、彼が差し入れてくれた温かいお茶。指先が軽く重なった瞬間、互いの体温が静かに伝わり、心が溶けるような安心感を覚えた。あれ以来、仕事を超えた、何か穏やかな絆を感じていた。

「部長のおかげです。いつもアドバイスをくれて……本当に、心強いんです」

 私は素直に答える。車内の空気が、柔らかく温まる。会話は自然にプライベートへ移る。部長の趣味の話、週末の読書、私の好きなワインの銘柄。笑い声が小さく響き、心の距離が少しずつ近づいていく。高速の街灯が、車窓を次々と過ぎる中、彼の横顔が灯りに照らされ、優しい陰影を落とす。その視線が、時折私の方へ向けられるたび、胸が甘く疼いた。

「美咲さん、君は本当に成長したよ。七年経つのが早いな」

 彼の言葉に、頰が熱くなる。信頼されている実感が、体全体を優しく包む。急ぐ必要はない。ただ、この穏やかな時間が続くだけで、十分だ。

 一時間ほどで、目的地の温泉街に到着した。山間の静かな町、平日夜の通りは人影もまばら。旅館の玄関灯が、柔らかな橙色に輝いている。私たちは荷物を引きずり、ロビーへ。フロントで手続きを済ませ、部屋割りを受け取る。部長とは別室だが、同じ階だ。

「宴会は夜八時からだな。少し休んでおけよ」

 彼の気遣いに頷き、私は部屋へ向かう。畳の香りが心地よい和室、窓からは暗い山影が見える。荷物を解きながら、ふと机の上に置かれたチラシに目が留まった。地元の小さなイベント告知、地元コスプレフェスティバル。翌日開催、旅館近くの会場で。セクシーな衣装をまとった大人のモデルが微笑む写真に、思わず頰が染まる。

 コスプレ……。普段の私には縁遠い世界。でも、信頼できる部長の前で、そんな姿を見せる想像が、胸をざわつかせる。鏡に映る自分の体、28歳の柔らかな曲線。もし彼の視線が、そこに注がれたら……。

 夕食前のひと時、私は湯浴みを済ませ、浴衣に着替えた。肌にまとわりつく生地が、心地よい。宴会場へ向かう廊下で、部長と再会する。彼も浴衣姿、ゆったりとした着こなしが、男らしい体躯を際立たせる。

「美咲さん、似合ってるよ。リラックスした顔がいい」

 その言葉と、優しい視線に、再び胸が甘く疼く。柔らかな灯りの下、二人は宴席へ。会社の同僚たちと杯を交わし、笑い声が響く。酒の温もりが体を巡り、部長の隣に座る私の肩が、時折触れる。静かな熱が、互いの間に伝わる。

 宴会が進むにつれ、周囲の声が遠くなり、彼の存在だけが鮮明になる。あのチラシのことが、頭をよぎる。コスプレの誘惑、信頼の絆がもたらす何か……。夜はまだ深い。宴会の後、何が起きるのだろう。

(第2話へ続く)

━━━━━━━━━━━━━━━━━━