如月澪

オフィスヨガの密着する熱(第1話)

この作品は18歳未満の方の閲覧を禁止します。フィクションであり、現実の人物・事件とは一切関係ありません。

## 第1話:入社初日のしなやかなウェア

 平日の夕暮れ、オフィスの窓辺に差し込む柔らかな橙色の光が、机の上に散らばった書類を優しく染めていた。拓也はデスクで最後のメールを確認し、時計に目をやる。午後七時を回った頃合いだ。外の街路樹が風に揺れ、ビルの谷間を抜ける車の音が遠くに響く。この時間帯のオフィスは、残業の気配すら薄れ、静かな余韻に包まれている。

 そんな中、社内ヨガクラスの時間だった。新人教育の一環として、福利厚生の一環で始まったこのクラス。拓也は三十歳を過ぎ、営業部のリーダーとして、指導役を任されていた。ヨガの資格は独学で取ったものだが、ストレスフルな日常を和らげるために続けている。参加者はまばらで、今日は数名が顔を揃える程度だろう。

 会議室をヨガスペースに改造した部屋に入ると、すでにマットが並べられ、照明が落とされて穏やかな空気が漂っていた。拓也はウェアに着替え、深呼吸をする。参加者の一人が、ドアから入ってきた。新人OLの彩花、二十二歳。入社してまだ一週間だという。

 彼女は黒のタイトなレギンスとタンクトップ姿で現れた。しなやかな生地が体に沿い、肩から腰にかけてのラインを自然に浮き彫りにする。入社時のスーツ姿とは違い、動きやすいウェアが、彼女の柔らかな曲線を静かに強調していた。髪をポニーテールにまとめ、素足でマットを踏む姿は、どこか新鮮で、拓也の視線を一瞬、引きつけた。

「皆さん、こんばんは。今日から参加の彩花さんも、ようこそ。リラックスして始めましょう」

 拓也の声に、彩花が軽く頭を下げ、微笑んだ。彼女の目は穏やかで、頰に少し緊張した淡い赤みを添えていた。他の参加者も定位置につき、クラスが始まる。拓也は前方に立ち、ゆっくりとガイドを進める。

「まずは、呼吸を整えて。山のポーズから。足を肩幅に開き、腕を天井へ伸ばして」

 皆が真似をする中、彩花の姿が拓也の目に留まった。彼女の腕がゆっくりと上がり、ウェアの生地が微かに張る。背筋が伸び、胸元が軽く上下する息づかいが、部屋の静寂に溶け込む。拓也は視線を逸らさず、皆を見渡すが、自然と彼女のラインに目がいく。入社以来、業務で何度か顔を合わせたが、こんな距離で彼女の動きを見るのは初めてだった。

 クラスが進み、ダウンドッグのポーズへ。皆が四つん這いになり、腰を上げて体を反らせる。彩花のレギンスが、太ももの筋肉を優しく包み、しなやかな脚線が浮かび上がる。汗がわずかににじみ、肌の光沢が照明に映える。拓也は後ろから皆のフォームをチェックし、自然に彩花の近くへ寄った。

「彩花さん、腰をもう少し落として。膝が内側に入らないように」

 彼の手が、軽く彼女の腰に触れる。ほんの一瞬、指先がウェア越しに伝わる柔らかな感触。彩花の体が微かに震え、息がわずかに乱れた。拓也も、自分の指先に熱が集まるのを感じた。日常の業務では感じない、微かな緊張が空気に混じる。

「はい、そうです。いい感じです」

 手を離すと、彩花が顔を上げ、拓也の目を見つめた。彼女の瞳に、淡い照れが浮かぶ。互いの視線が交差し、数秒の間、部屋の空気が少しだけ濃くなった。他の参加者は自分のポーズに集中し、周囲は静かだ。拓也の胸に、予期せぬ鼓動が響く。

 次は戦士のポーズ。片足を後ろに引き、腕を広げる。彩花のバランスが少し崩れ、拓也が再び近づく。

「ここで支えて。肩を落として」

 今度は肩に手をかける。彼女の肌がウェアから覗く部分で、温かく湿った感触が伝わる。汗の香りが、ほのかに甘く漂い、拓也の鼻腔をくすぐった。彩花の息が近く、耳元で微かに聞こえる。彼女の胸がゆっくり上下し、ウェアの生地が微かに擦れる音すら、静かな部屋で際立つ。

 触れ合いは業務的なものに過ぎないはずなのに、指先から体温がじんわりと伝わり、拓也の喉が乾く。彩花も、視線を伏せながら、唇を軽く噛むような仕草を見せた。緊張か、それとも……。クラスが続く中、そんな微かな瞬間が、何度も繰り返される。プランクのポーズで互いの手が触れ合い、ツイストで腰のラインが近づくたび、息が熱を帯びていく。

 四十分のクラスが終わり、皆がマットを畳み始める。彩花は汗を拭きながら、拓也に近づいてきた。

「拓也さん、今日はありがとうございました。まだ慣れなくて、フォローしてもらって助かりました」

 彼女の声は柔らかく、頰に残る赤みが、照明の下で優しく輝く。ウェア姿のままの彼女は、日常のOLとは違う、しっとりとした色気を放っていた。

「いえ、彩花さんの柔軟性は素晴らしいですよ。次回もこの調子で」

 拓也が返すと、彩花は目を細め、微笑んだ。

「次もよろしく、お願いします」

 その言葉に、彼女の視線が少し長く絡みつく。部屋を出る参加者の足音が遠ざかる中、二人の間に、淡い余韻が残った。オフィスの廊下を歩きながら、拓也は彼女の後ろ姿を追う。レギンスに包まれた腰の揺れが、夕暮れの光に溶けていく。あの微かな触れ合いが、日常の延長で生まれた熱のように、胸に静かに疼きを残していた。

 次回のクラスが、どんな空気で迎えるのか。拓也の心に、かすかな期待が芽生え始めていた。

(約1950字)