篠原美琴

取引先の視線が絡むストッキング(第4話)

この作品は18歳未満の方の閲覧を禁止します。フィクションであり、現実の人物・事件とは一切関係ありません。

## 第4話:部屋に溶ける視線

 平日の夜、オフィス街の喧騒が遠くに溶け、街灯の光がアスファルトに淡い筋を引く頃、私は彼の部屋を訪れた。佐倉美咲、三十代半ばの私は、資料の入った鞄を携え、指定されたホテルのエレベーターに乗り込む。黒いタイトスカートの下、ストッキングの乱れが微かに残る脚が、振動に敏感に反応する。前回のテーブルの下で、指先が止まった熱が、膝裏に沈んだまま、引かない。扉が開き、廊下の静寂が迎える。ドアの前に立ち、ノックする。低く響く足音が近づき、ドアが開く。

 井上拓也氏。三十代後半の体躯が、部屋の薄明かりに浮かぶ。シャツのボタンを一つ外し、ネクタイを外した姿。目が合う。低く抑えた声。

「佐倉さん、来てくれて……ありがとう」

 頷き、部屋に入る。資料を置くテーブルの周り、窓辺に夜の街灯が影を落とす。ラウンジのような落ち着いた空間で、グラスに注がれた酒の香りが漂う。互いの距離は、一メートルほど。触れぬ空気の層が、すでに熱を帯びる。彼がグラスを差し出す。指先が、かすかに震えるのを、感じる。

 席に着く。資料を広げようとするが、手が止まる。視線が、落ちる。テーブルの下、私の脚へ。黒いストッキングの乱れを、なぞるように。膝の皺が、蛍光灯の薄光に淡く浮かぶ。前回の記憶が、息に混じる。指先の近さ。囁きの合意。私の心臓が、静かに速まる。熱が、太ももの内側に集まる。

 沈黙。酒のグラスを傾ける音だけが、部屋に響く。彼の瞳が、ストッキングのラインを這う。膝からふくらはぎへ、黒い生地の光沢を、ゆっくり。触れぬ視線が、肌を焦がす。三十代の体は、こんな距離一つで、奥が疼き始める。ブラウスの中で、胸の頂が息に擦れ、硬く張る。ストッキングの下、汗がじわりと滲む気配。

「……資料は、後で」

 彼の声が、落ちる。低く、掠れた。視線を上げ、私の目へ。そこに、暗い熱。ためらいの奥に、促す揺れ。私は頷く。合意の沈黙。グラスを置き、立ち上がる。彼も立ち、近づく。互いの息が、重なる。一センチの距離で、止まる。触れぬ空気が、熱く震える。

 視線が、溶け合う。ストッキング越しに、彼の瞳が脚を這う。乱れの皺を、深く。私の手が、テーブルの縁を握る。指先が白くなるほど。熱が、膝裏から全身へ駆け巡る。喉が乾き、息が浅くなる。彼の指が、ゆっくり近づく。ストッキングの表面に、一センチで止まる。空気の層が、薄く溶け出す。

 沈黙が、深まる。互いの視線が絡みつき、離れない。黒い生地のラインが、彼の瞳に映る。私の肌が、震える。ふくらはぎの筋が緊張し、熱が頂点近くで波立つ。ブラウスを濡らす汗。胸の谷間が、深く上下する。彼の息遣いが、聞こえる。低く、乱れた音。指先が、微かに前へ。ストッキングの乱れに、触れる寸前。

 私は、動かない。ただ、視線を落とす。合意の余白に、体を委ねる。彼の指が、ついに触れる。ストッキングの生地を、軽く押す。薄いナイロンの下、肌が熱く反応する。震えが、膝から太ももへ伝わる。触れられた瞬間、抑えきれない波が爆ぜる。全身が甘く痺れ、奥が収縮するような。三十代の欲求が、視線と指先で頂点に達する。

 だが、止まらない。彼の指が、乱れをなぞる。ストッキングの皺を、ゆっくり伸ばすように。摩擦の熱が、肌を駆け巡る。私の息が、途切れる。手が、彼の腕に触れる。合意の感触。互いの視線が、再び絡みつく。部屋の空気が、溶け合う。酒の香りと、汗の匂いが混じる。

 彼が、近づく。体躯が、私を包むように。唇が、耳元に寄る。囁き。

「佐倉さん……ここで」

 声に、震え。私の頷きを待つ。私は、ゆっくり体を寄せる。ストッキングの脚が、彼の脚に触れる。生地の擦れが、電流のように走る。熱が、頂点で砕け散る。ブラウスを脱がされ、胸が露わに。頂が硬く尖り、空気に震える。彼の視線が、そこへ落ちる。暗く、熱く。

 沈黙の余白に、互いの手が重なる。ストッキングを、ゆっくり引き下ろす指先。肌が露わになり、夜の空気に触れる。膝裏の熱が、直接伝わる。私の指が、彼のシャツを剥ぐ。胸板の筋が、掌に感じられる。息が、重なり合う。唇が、触れる。柔らかく、熱い。舌が絡み、甘い疼きが全身を覆う。

 ベッドへ導かれる。触れぬ距離が、ついに溶ける。互いの肌が、重なる瞬間。ストッキングの残った脚が、彼の腰に絡む。生地の摩擦が、頂点を煽る。私の奥が、熱く開き、彼を迎える。合意の深さで、ゆっくり沈む。波が、爆発的に頂点へ。全身が痙攣し、甘い痺れが肌を駆け巡る。視線が絡みつき、沈黙の中で息が乱れる。指先が背中を掻き、爪が食い込む。三十代の体が、互いの熱で溶け合う。

 頂点が、繰り返す。抑えきれない波が、次々と砕け散る。彼の息が、耳元で低く唸る。私の声が、漏れる。掠れた、甘い音。ストッキングの残骸が、シーツに絡み、摩擦の余韻を残す。視線が、離れない。瞳の奥に、互いの熱が映る。体が震え、頂点で静止する。永遠のような瞬間。

 やがて、静まる。互いの息が、部屋に満ちる。肌が触れ合い、汗で濡れる。ストッキングの黒い生地が、床に落ち、街灯の光に淡く光る。彼の指が、私の髪を梳く。視線が、優しく絡む。

「……佐倉さん、これからも」

 囁きに、頷く。合意の余韻。取引先の視線が、永遠の熱に変わる。沈黙が、甘く深まる。夜の街灯が、窓に影を落とす。互いの体温が、引かず残る。心と肌の疼きが、二人の間で、静かに永続する。

(完)