三条由真

お姉さんの視線に奪われる主導権(第1話)

この作品は18歳未満の方の閲覧を禁止します。フィクションであり、現実の人物・事件とは一切関係ありません。

## 第1話:バーカウンターの意味深な視線

 平日の夜、街の喧騒が少し遠のいた路地裏のバー。重厚な扉を押し開けると、グラスが触れ合う微かな音と、ジャズの低音が空気に溶け込む。カウンターに腰を下ろし、いつものウィスキーを注文した。二十代半ばの俺は、仕事の疲れをこの静かな空間で溶かすのが習慣だ。バーテンダーが氷を落とす音が、心地よいリズムを刻む。

 隣の席に、彼女が滑り込むように座った。二十五歳くらいだろうか。黒いワンピースが体に沿い、豊かな胸の曲線を柔らかく強調している。巨乳、という言葉が脳裏をよぎるが、それはただの事実以上のものを放っていた。窓から差し込む街灯の柔らかな光が、彼女の白い肌を優しく照らす。長い髪を耳にかけ、グラスを傾ける仕草が、どこか計算された優雅さを感じさせた。

 最初は偶然の視線だった。俺がウィスキーを一口含むと、彼女の瞳がこちらを捉える。黒い瞳孔が、わずかに細くなる。微笑みは浮かんでいるのに、その奥に何かがある。挑戦か、誘いか。俺は目を逸らさず、軽くグラスを掲げた。彼女も同じく応じる。無言の挨拶。空気が、ほんの少し張りつめた。

「いい夜ね。ここ、気に入ってるの?」

 彼女の声は低く、響く。彼女は美咲だと自己紹介した。二十五歳。言葉の端に、甘い棘が潜む。俺は頷き、仕事の話をぼかして返す。彼女はグラスを回しながら、俺の顔を観察するように見つめる。視線が、首筋を滑り、胸元へ。俺の息が、わずかに乱れる。

「あなた、強がってる顔してるわ。疲れてるんでしょう? でも、目が鋭い。面白い人」

 美咲の唇が、ゆっくり弧を描く。言葉が、俺の心に軽く触れる。強がり? 確かに、今日のミーティングで主導権を握り損ねた苛立ちが残っている。彼女はそれを、視線だけで見抜いたようだ。俺はカウンターに肘をつき、反撃するように身を寄せる。

「君こそ、こんな時間に一人で。誰かを待ってるのか?」

 彼女の笑みが深まる。巨乳が、息づかいに合わせてわずかに揺れる。ワンピースの生地が張り、柔らかな膨らみの輪郭を浮かび上がらせる。俺の視線が、そこに引きつけられるのを、彼女は知っている。知っていて、敢えて体を少し傾ける。空気が、熱を帯び始める。

「待ってる、かもね。面白い人に出会えるかも、と思って」

 美咲の指が、グラスの縁をなぞる。ゆっくり、円を描く仕草が、俺の想像を掻き立てる。会話は続くが、言葉の合間に沈黙が忍び込む。その一瞬、彼女の視線が俺を射抜く。圧だ。心理的な、息を詰まらせる圧。俺はグラスを置き、彼女の瞳に挑むように見返す。どちらが先に折れるか。主導権を握ろうとする俺の心が、わずかに揺らぐ。

 バーテンダーが新しいグラスを運んでくる。氷の音が、緊張を一時解く。美咲はワインを一口。赤い液体が唇を濡らし、艶めかしく光る。俺は身を寄せ、囁くように言う。

「君の視線、危ないよ。捕らわれそう」

 彼女の瞳が輝く。体が近づく。カウンターの下で、膝が触れ合う。柔らかな感触が、電流のように走る。息づかいが混じり合う距離。唇が、触れそうで触れない。俺は主導権を握ろうと、ゆっくり手を伸ばす。彼女の腰に触れようとしたその瞬間──。

 美咲が、微笑んだまま沈黙する。視線だけが、俺を貫く。言葉はない。ただ、その瞳の奥に、揺るぎない自信。俺の指が、止まる。心臓の鼓動が速くなる。彼女の巨乳が、息に合わせて上下し、俺の胸に軽く触れる。柔らかさの予感が、肌を熱くする。誰が操っているのか、分からない。空気が凍りつき、次の瞬間溶け出す。

「ねえ、私の部屋、近いわ。続き、そこでしない?」

 美咲の囁きが、耳朶をくすぐる。俺の心が、再び揺らぐ。彼女の視線に、奪われそうな主導権。バーから出る頃、夜風が二人の熱を煽っていた。

(第2話へ続く)