久我涼一

AV女優の剃刀と大家の疼き(第2話)

この作品は18歳未満の方の閲覧を禁止します。フィクションであり、現実の人物・事件とは一切関係ありません。

## 第2話:呼び出しの熱と耳元の約束

 平日の夜、雨が細くアスファルトを叩く音が、マンションの窓から聞こえていた。浩一は自室のソファに腰を沈め、スマホの画面を眺めていた。連絡先交換から二日後、美咲からのメッセージが届いたのは夕方だった。「大家さん、今夜空いてる? 部屋の様子見てほしいの。また何か変かも」。シンプルな文面に、添付されたのは蛇口の写真。修理したばかりのはずだ。だが、浩一の胸に、別の予感がよぎる。あの意味深な微笑み。「私の肌を、特別に整えてあげるわ」。

 五十代の男は、理性で自分を戒める。入居者の部屋に行くのは仕事だ。深入りするな。長い大家経験で、境界線を越えると面倒が生じるのを嫌というほど知っている。妻を早くに亡くし、一人でマンションを切り盛りしてきた。欲望は、日常の隙間に押し込めてきたはずだ。それなのに、指は自然と返信を打っていた。「わかりました。九時頃伺います」。送信ボタンを押した瞬間、下腹に疼きが蘇る。雨音が、静かな部屋に重く響いた。

 九時少し前、浩一は工具箱を手に302号室のドアをノックした。雨に濡れた廊下で街灯が、足元をぼんやり照らす。ドアが開き、美咲の姿が現れた。今回は黒いシルクのキャミソールと膝丈のワンピース。薄いストッキングに包まれた脚が、柔らかな曲線を強調している。部屋の中から、かすかなジャズのメロディが漏れ、酒の香りが混じる。

「大家さん、来てくれたのね。ありがとう。入って」

 美咲の声は甘く、いつものように道を譲る。浩一は靴を脱ぎ、キッチンへ向かった。蛇口を確かめる。水は問題ない。だが、美咲はカウンターに寄りかかり、グラスを傾けている。琥珀色の液体が、揺れる胸元に影を落とす。

「これ、完璧じゃないですか。わざわざ呼ぶほどでもないわ」

 浩一が振り返ると、美咲の視線が絡みつく。夕暮れの時より、熱を増している。彼女はグラスを置き、ゆっくり近づいてきた。距離が縮まる。浩一の背が、自然とカウンターに当たる。

「本当はね、大家さんに会いたくて。修理なんて、口実よ」

 ストレートな言葉に、浩一の喉が鳴った。理性が警告する。帰れ。今すぐ。だが、体は動かない。美咲の指が、浩一のシャツの襟に触れる。爪が、首筋をなぞる感触。甘い息が、顔に触れる。

「前回、触れた時……大家さんの体、固くなったわよね。五十代の男の、抑えた熱。仕事で知ってるの、私」

 彼女の唇が、浩一の耳に寄る。AV女優の経験が、言葉に重みを加える。浩一は目を閉じ、息を吐いた。長い社会生活で、女の誘惑を見てきた。バーでの酔った妻、夜の廊下で密会する夫婦。だが、これは違う。目の前の女性は、欲望を隠さない。痴女めいた視線が、浩一の下腹を射抜く。

「美咲さん……俺は大家だ。こんなこと、まずい」

 言葉とは裏腹に、手が彼女の肩に触れていた。美咲はくすりと笑い、浩一の胸に体を寄せる。キャミソールの薄い布地越しに、柔らかな膨らみが当たる。熱い。浩一の心臓が、速まる。彼女の指が、シャツのボタンを一つ、外す。肌が露わになる感触に、理性の糸が緩む。

「まずい? でも、大家さんのここ……もう熱くなってるわよ」

 美咲の手が、浩一の腰に回る。下腹を、優しく撫でる。作業着の生地越しに、確かな膨らみを感じ取る仕草。浩一の息が乱れ、思わず彼女の腰を抱き寄せた。互いの体温が、重なる。雨音が、BGMのように部屋を満たす。

 美咲の唇が、浩一の唇に触れた。柔らかく、湿ったキス。最初は軽く、探るように。だが、すぐに深くなる。舌が絡み、甘い味が広がる。浩一は抗えず、応じる。五十代の男が、二十八歳の女に飲み込まれる。彼女の痴態が、理性の壁を溶かす。手が、ワンピースの裾をまくり上げる。ストッキングの感触が、太ももに伝わる。美咲の吐息が、熱く漏れる。

「ん……大家さん、キス上手ね。もっと、深く」

 彼女の体が、浩一に密着する。胸の頂が、シャツを押し上げる。浩一の指が、背中を滑る。シルクの滑らかさと、肌の温もり。互いの熱が、布地を透過して溶け合う。キスが途切れ、美咲の唇が首筋へ。歯が、軽く当たる。浩一の体が、震えた。下腹の疼きが、限界を告げる。

 美咲は浩一の耳元に唇を寄せ、囁いた。声は低く、甘い。

「あなたの下腹……綺麗に剃ってあげたいの。私の手で。滑らかな肌に、私の指が這うの想像して?」

 剃刀のイメージが、浩一の頭に閃く。前回の言葉の意味が、繋がる。AV女優の特殊な嗜好か。未知の提案に、浩一の興奮が煽られる。理性が、最後の抵抗を試みる。だが、美咲の指が、下腹を優しく押さえ、円を描く。体が、正直に反応する。

「そんな……剃るって、何だよ」

 声がかすれる。美咲は笑い、浩一の頰にキスを落とす。

「私の仕事で、よくやるの。男のそこを、ツルツルに。感じ方が、違うわよ。大家さんみたいな大人の男なら、きっと気に入る。約束して? 次、来て」

 彼女の瞳が、熱く輝く。痴女の積極性が、浩一の心を揺さぶる。責任と衝動の間で、五十代の男は揺れる。日常の延長線上にある、この誘惑。拒めば、後悔するかもしれない。浩一は、ゆっくり頷いた。

「わかった……次は、いつだ」

 美咲の笑みが、満足げに広がる。唇が、再び重なる。短いキスで、互いの熱を確かめ合う。雨が強くなり、窓を叩く音が、部屋の余韻を包む。浩一は体を離し、シャツのボタンを直した。理性が、かろうじて戻る。

「じゃあ、連絡待ってるわ。大家さん」

 ドアが閉まる瞬間、美咲の視線が背中に刺さる。浩一は階段を降りながら、耳元の囁きを反芻した。下腹の剃刀。未知の快楽が、待ち受ける。心の揺らぎが、次回の訪問を約束させる。夜の静寂に、疼きが残った。

(第2話完)

 次話へ続く──剃刀の感触が、浩一の未知の扉を開く。