この作品は18歳未満の方の閲覧を禁止します。フィクションであり、現実の人物・事件とは一切関係ありません。
## 第2話:夜風に揺れる白い腕
視線が再び絡みつく。彼女の瞳が、薄暗い部屋の空気を切り裂くように、私を捉える。誰かの笑い声が割り込むが、無視してグラスを置く。部屋の熱気が、肌にまとわりつく。酒の匂いと煙草の残り香が混じり、息苦しい。私は壁から離れ、ゆっくりとバルコニーへ向かう。カーテンをくぐり、夜風が頰を撫でる。平日夜の街は静かだ。遠くのネオンがぼんやり光り、車の音が低く響く。手すりに寄りかかると、背後に気配。振り返らずともわかる。彼女だ。みゆ。足音が、かすかに近づく。
並ぶ。言葉はない。夜風が、彼女の髪を軽く持ち上げる。金色のハイライトが、街灯の光を借りてきらめく。白い腕が、風にさらされ、微かに揺れる。肩出しのトップスから覗く肌が、冷たい空気に触れ、かすかな鳥肌を立てるのが見える。私は視線を落とす。その白さは、部屋の中より鮮やかだ。夜の闇に溶け込むはずの肌が、逆に光を放つ。指先まで、細く長い。ネイルの光沢が、風に揺れて跳ねる。私の息が、わずかに止まる。
沈黙が、バルコニーを満たす。パーティーのざわめきはガラス戸越しに遠い。互いの体温が、風に運ばれて近づく錯覚。彼女の腕が手すりに触れる。私の指とはわずか数センチ。触れそうで、触れない。風がその間を吹き抜ける。白い肌の表面が、風に撫でられ、微かに震える。鎖骨のラインが、トップスの縁で影を落とす。私の視線が、そこに落ちる。熱が、胸の奥からじわりと広がる。彼女の息づかいが聞こえる。浅く、乱れ気味。瞳が、私の横顔をなぞる。
私は動かない。三十歳の体が、夜風に冷やされながら、内側で熱を持つ。彼女の白い腕を、もっと近くで見たい。触れたいわけではない。ただ、その揺れを、確かめたい。風が強まる。彼女のスカートの裾が軽くめくれ、白い太ももの輪郭が一瞬露わになる。慌てて視線を逸らすが、遅い。心臓の鼓動が、速まる。彼女は気づいている。瞳の端が、微かに細まる。笑みではない。誘いの気配か、それとも同じ疼きか。沈黙が、互いの想像を膨らませる。彼女の体温は、どんな感触だろう。白い肌の下、脈打つ熱。
指先が、わずかに動く。私のものか、彼女のものか。手すりの上で、影が重なる。触れそう。風が、邪魔をする。息が、互いに同期するように浅くなる。彼女の首筋が、街灯の光で白く浮かぶ。メイクの濃いリップが、唇の動きに湿った光を放つ。言葉をかけようか。だが、沈黙が心地いい。この距離が、甘い。白い腕の筋が、風に抗うように微かに張る。私の視線を、独占する。体が、熱く疼く。肌が、震える。まだ、触れられない。
ガラス戸の向こうで、誰かの声が上がる。パーティーの喧騒が、波のように寄せてくる。彼女の瞳が、一瞬部屋の方へ。だが、すぐに戻る。私に。白い腕が、手すりから離れ、風にさらされる。揺れる。その動きが、私の胸を締めつける。もっと、この沈黙を続けたい。だが、夜風が冷たくなる。彼女の吐息が、わずかに漏れる。熱い。互いの視線が、再び絡む。指先の距離が、縮まる気配。心の隙間が、甘く疼き始める。
私はゆっくりと体を起こす。彼女も、同じ。ガラス戸に手をかける。部屋の熱気が、漏れ出す。だが、バルコニーの余韻が、肌に残る。白い腕の揺れが、目に焼きつく。パーティーはまだ続く。この疼きが、次にどう変わるのか。廊下の薄暗さが、待っているような気がした。
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