三条由真

女社長の視線、妻の隙を刺す(第2話)

この作品は18歳未満の方の閲覧を禁止します。フィクションであり、現実の人物・事件とは一切関係ありません。

## 第2話:深夜オフィスの囁き、肩の熱線

会議室の空気が、なおも張り詰めたままだった。遥の言葉が落ちた瞬間から、時間はゆっくりと流れを変えていた。拓也は壁に背を預け、息を潜める。オフィスの時計はすでに深夜零時を回り、フロアの照明は最小限に落とされている。窓の外では、雨が細かく降り始め、街灯の光を滲ませていた。残業の名の下に、二人は資料を広げたテーブルに向かい合う。だが、仕事は進まない。遥の存在が、空気を支配していた。

彼女は椅子に腰掛け、資料をめくるふりをしながら、視線を拓也に滑らせる。黒いスーツのジャケットを脱ぎ、ブラウスが肩のラインを柔らかく浮かび上がらせている。ストッキングの脚が、テーブルの下で軽く組み替わる音が、静寂に響く。拓也は向かいに座り、ペンを握る手に力を込める。妻の顔が、脳裏にちらつく。帰宅したら、いつものように待っているだろう。だが、この部屋の空気は、そんな日常を遠ざける。遥の香水が、甘く絡みつく。

「ここ、数字の整合性が取れてないわね。君の目で、もう一度確認して」

遥の声が、低く響く。彼女は立ち上がり、拓也の隣に移動する。ヒールの音が、床に湿った反響を残す。距離が、急に近くなる。拓也の肩に、彼女の影が落ちる。資料を覗き込むふりで、体を寄せ、息が耳元にかかる。温かく、微かな湿り気。「ほら、見て。この列……」

指先が、拓也の肩に触れる。軽く、爪の先で撫でるように。電流のような震えが、拓也の体を走る。彼女の痴女的な仕草。意図的だ。視線が、首筋を這う。拓也は資料に目を凝らすが、文字がぼやける。「あ、はい……修正します」

言葉が、かすれる。遥の唇が、耳朶すれすれで動く。「焦らなくていいわ。ゆっくり、ね。私と二人きりなんだから」

囁きが、息を詰まらせる。彼女の息が、熱く絡みつく。ムスクの香りが、濃くなる。拓也の心臓が、激しく鳴る。妻の記憶が、抵抗のように浮かぶ。あの柔らかな手。毎晩の約束事。だが、遥の指が肩から鎖骨へ滑り、わずかに圧を加える。甘い圧力。主導権を、静かに握る女王の仕草。「社長……これは、仕事の……」

拓也の声が、途切れる。遥は小さく笑う。唇の端が、弧を描く。「仕事? ええ、そうよ。でも、君の体が熱いわ。緊張してるの? それとも……」

彼女の瞳が、拓也の顔を捉える。黒い深みに、吸い込まれそう。痴女の視線。獲物を弄ぶような、甘い嘲り。拓也は目を逸らそうとするが、できない。互いの息が、絡み合う距離。テーブルに肘を突き、遥はさらに体を寄せる。ブラウス越しに、胸の柔らかな膨らみが、腕に触れそう。「妻君は、こんな夜遅くまで待ってるのかしら。君の帰りを、寂しく待ってるわね」

妻の名を、意図的に。棘のように、心を刺す。拓也の胸が、ざわつく。忠誠の糸が、わずかに緩む。「そんな……妻は、理解してくれています。仕事が大事だと」

抵抗の言葉。だが、声に力がない。遥の指が、肩を揉むように動く。優しく、しかし執拗に。熱が、皮膚の下で広がる。「理解? いいわね、そういう女性。でも、君みたいな男は、もっと刺激が必要よ。毎日のルーチンじゃ、物足りないでしょう?」

言葉が、心理を抉る。拓也の視線が、遥の唇に落ちる。湿った赤み。息が、互いに混ざる。主導権の綱引き。遥が一歩リードし、拓也の抵抗が、甘い疼きに変わる。体が、熱を持つ。妻の影が、薄れる瞬間。遥のもう片方の手が、拓也の膝に落ちる。軽く、撫でる。「ほら、資料なんて後回し。私の目を見て話して」

視線が、凍りつく。空気が、一瞬で固まる。拓也の喉が、鳴る。抵抗したい。だが、遥の瞳に、逆転の予感が宿る。彼女の息が、速くなる。わずかな隙。拓也の指が、無意識にテーブルを握る。熱い。互いの熱が、絡みつく。

遥は体を引かず、耳元で続ける。「君の目、面白いわ。抵抗してるのに、体が正直。妻には、こんな顔見せないのね」

痴女の圧。言葉の刃が、甘く切る。拓也の忠誠が、揺らぐ。心の均衡が、崩れかける。だが、彼の視線が、わずかに鋭くなる。遥の肩に、返しの視線を返す。沈黙が、落ちる。息を詰まらせる長い間。誰が折れるのか。遥の唇が、微笑む。リードを保ちつつ、次の手を匂わせる。

突然、彼女は体を離す。指が、肩から滑り落ちる。残る熱線。「ふふ、続きはまた今度。資料はこれでいいわ。君、明日も遅くまで残業できる? 私と、もっと深く」

言葉が、誘いの糸を引く。拓也の胸に、甘い疼きが残る。妻の顔が、遠く霞む。オフィスの雨音が、二人の沈黙を包む。この夜の余熱が、次なる密会を予感させる。遥の背中が、ドアへ向かう。視線が、最後に絡みつく。均衡の綱が、熱く震えていた。

(2012文字)