この作品は18歳未満の方の閲覧を禁止します。フィクションであり、現実の人物・事件とは一切関係ありません。
## 第2話:紅茶の湯気、重なる肩、紅潮の首筋
夫の出張が五日目を迎えた平日、夕暮れの薄闇が窓辺を染めていた。遥はキッチンのカウンターに寄りかかり、湯気の立つポットを眺める。二十八歳の肌は、室内の柔らかな灯りに白く浮かび、静かな家に溶け込む。外からは、遠い街灯の光が、かすかな車の音とともに忍び寄る。夫の不在が、空気をより濃く、重くする。
インターホンが、再び鳴った。あの夜以来、二度目の訪問。モニターに拓也の姿。三十五歳の彼は、背広の襟を正し、穏やかな表情で立っている。夫の忘れ物か、何か口実があるのだろう。遥の胸に、微かな予感がよぎる。あの指先の感触が、まだ腕に残っている。熱く、疼くように。
ドアを開けると、拓也の視線が、すぐに遥の白い首筋へ落ちる。言葉少なに迎え入れ、リビングへ導く。ソファに座る彼を横目に、遥はキッチンへ向かう。
「紅茶、いかがですか」
遥の声は、静かだった。拓也は小さく頷き、こちらを見上げる。その目が、遥の動きを追う。ポットのお湯を注ぐ間、背後に彼の気配を感じる。夫の友人として、何度か顔を合わせた男。でも今、夫のいないこの空間で、その存在が、息苦しいほどの重みを帯びる。
湯気が立ち上る。遥はカップを二つ並べ、ティーバッグを沈める。肩越しに、拓也が近づいてくる気配。キッチンの狭い通路で、二人の肩が、触れ合う。布地同士の、かすかな摩擦。遥の体が、わずかに固まる。拓也は動かない。ただ、そこに立つ。沈黙が、湯気の湿り気を帯びて、重く部屋を満たす。
遥はカップに注ぐ手を、微かに震わせる。熱いお湯が、縁を濡らす。肩の感触が、皮膚の下に伝わる。温かく、固い。指先の記憶が、重なる。あの白い腕を掠めた圧が、今、肩を通じて蘇る。遥の首筋が、じわりと熱を持つ。白い肌に、薄い紅が差す。視線を感じる。拓也の目が、首のラインを、ゆっくりとなぞるように。
カップをテーブルに運ぶ。遥は向かいに座ろうとするが、拓也の視線が、離れない。紅茶の香りが、沈黙を柔らかく包む。二人は一口、飲む。湯気の向こうで、目が絡む。言葉はないのだろう。夫の話か、天気の話か。拓也の声が、低く響く。
「遥さん、最近お元気そうですね」
その一言に、遥の息が、わずかに揺らぐ。甘く、細い。首筋の紅潮が、熱を増す。視線が、白い肌を這う。肩の感触が、まだ残る。遥はカップを握りしめ、息を潜める。胸の内で、鼓動が速まる。吐息が、唇の端から、かすかに漏れる。甘い響き。喘ぎめいた、微かな揺らぎ。
拓也の目が、深くなる。遥の首筋を、執着するように。紅茶の湯気が、二人の間を漂う。沈黙が、再び訪れる。遥の息が、浅く乱れる。肩の温もりが、体全体に広がる。白い肌が、敏感に反応する。指先の記憶、視線の重み。夫の友人。それなのに、この熱。
時間が、ゆっくりと流れる。拓也が立ち上がり、玄関へ向かう。遥は後を追う。ドアの前で、再び視線が交わる。拓也が、ドアノブに触れる前に、遥の耳元に近づく。息がかかる距離。囁きが、落ちる。
「また、来てもいいですか」
低く、抑えた声。遥の唇が、震える。言葉は出ない。ただ、頷くような、微かな動き。拓也の視線が、最後に首筋を撫でるように落ち、去っていく。ドアが閉まる音が、静かに響く。遥は壁に寄りかかり、息を吐く。甘く、長い吐息。唇が、震え続ける。
夜が深まる。遥はベッドに横たわり、目を閉じる。夫の枕の匂いが、薄れる中、耳に残る囁き。肩の感触、首筋の紅潮。白い肌が、布団の下で熱く疼く。息が、浅く乱れる。吐息が、部屋に漏れる。細く、甘い響き。喘ぎのように、抑えきれず。
遥の手が、首筋に触れる。そこを、そっと撫でる。紅潮の熱が、蘇る。拓也の視線を思い出す。肩の重なり、囁きの息。唇が、震えを増す。次に、何が起こるのか。遥の胸は、高鳴りを抑えきれず、吐息を重ねる。
あの囁きが、再び耳に届く日を、遥は待ちわびていた。
(第2話 終わり 次話へ続く)