蜜環

滴る谷間に沈む主従の糸(第1話)

この作品は18歳未満の方の閲覧を禁止します。フィクションであり、現実の人物・事件とは一切関係ありません。

## 第1話:隣席に滑り込む滴る唇

 平日夜のバー。
 街灯の橙が硝子窓に滲み、カウンターの木目が湿った光を吸う。
 ジャズの低音が空気を震わせ、氷の軋みが唯一の足音。
 俺はウィスキーを傾け、息を潜める。
 二十代後半の男一人。仕事の残り香を酒で溶かす夜。

 隣席に影が滑り込む。
 女。28歳。豊満な胸がドレスの布地を押し上げ、谷間が微かに開く。
 黒髪が肩に落ち、唇が赤く濡れる。
 彼女の視線が俺のグラスに落ち、絡みつく。
 ゆっくり息を吐き、唇を湿らせる仕草。
 透明な糸が、唇端から零れ、彼女のグラス縁に落ちる。
 唾液の滴。細く光り、酒に溶け込む。

 体が熱くなる。
 彼女の瞳が俺を捕らえ、彼女が微笑む。唇が僅かに開き、再び糸を引く。
 カウンターの空気が重く、互いの息が混じる。
 熱い。湿った。
 彼女の指先がグラスをなぞり、ゆっくり谷間に移る。
 爪が布地を掠め、胸の膨らみを微かに震わせる。
 谷間の影が深く、滴るような光沢。
 俺の視線を飲み込み、引き込む。

 彼女の息が近づく。
 「ここ、いい?」
 声が低く、喉から零れる。唾液の余韻が残る唇。
 俺の肩に僅かな熱が触れる。
 頷くしかなく、グラスを握る手が震える。
 彼女の胸元が揺れ、谷間が息づく。
 指先が再び動く。谷間の縁を、ゆっくり円を描く。
 布地が擦れ、微かな音。
 俺の首筋に息がかかる。熱く、甘い。

 主導権は、どちらにある。
 彼女の瞳が俺を試す。笑みが淫らに広がる。
 唇から新たな滴が落ち、グラスに溶ける。
 俺のウィスキーに、彼女の唾液が混じり、味が変わる。
 舐めると、甘くねっとり。体が疼く。
 彼女の指が俺の膝に触れ、僅かに押す。
 谷間が近づき、息が絡む。
 「熱いわね、あなたの目。」
 声が耳朶を撫でる。唾液の糸が、唇から俺のグラスへ伸びる幻。

 カウンターの向こう、バーテンが視線を逸らす。
 俺たちは影に溶け、息を合わせる。
 彼女の胸が僅かに俺の腕に触れ、柔らかく沈む。
 谷間の熱が伝わり、肌がざわつく。
 指先が名刺を滑らせる。
 白い紙に、黒い文字。「蜜環」。住所と、短い言葉。「今夜、来ない?」
 淫らな笑み。唇が濡れ、糸を引く。
 谷間を指でなぞり、俺の視線を沈める。

 体が疼く。全身が。
 主従の糸が、滴る谷間に絡みつく予感。
 彼女の瞳が囁く。扉の向こうで待つ、濡れた約束。

(第1話完 1827字)