白坂透子

互いの息が溶かす甘い匂い(第2話)

この作品は18歳未満の方の閲覧を禁止します。フィクションであり、現実の人物・事件とは一切関係ありません。

## 第2話:アパートのワイン、首筋に染みる温かな吐息

 アパートのドアを閉めた瞬間、胸の疼きが一層深くなった。ベッドに腰を下ろし、首筋に指を這わせる。拓也の残り香が、まだ鼻腔に絡みついている。柔らかなムスクのニュアンス、体温を帯びた息の湿り気。夕暮れの余韻が、静かな部屋を満たす。スマホを手に取り、迷わずメッセージを送った。

「今から、うちでワインでもどう? まだ話足りないよ」

 返事はすぐに来た。「いいね。すぐ行くよ」。心が緩む。信頼の糸が、こんなにも自然に繋がる。数分後、インターホンが鳴った。拓也の姿がモニターに映る。ドアを開けると、彼の笑顔が夜の空気を優しく溶かす。

「突然でごめん。でも、彩花の家、初めてだな。落ち着く雰囲気」

 拓也が部屋を見回す。シンプルなリビング、柔らかな照明が木のフローリングを照らす。窓の外は平日の夜の静かな住宅街、遠くの街灯がぼんやり光るだけ。冷蔵庫から赤ワインを取り出し、グラスに注ぐ。ソファに並んで座り、軽く乾杯。アルコールの温もりが、互いの距離をさらに縮める。

 ワインの酸味が舌に広がる。会話は自然に流れる。仕事のささいな愚痴、最近の趣味のこと。だが、意識は匂いに奪われていく。拓也の首筋から、ほのかに漂う香り。レストランで感じたあの柔らかさが、部屋の空気に溶け込み、濃密になる。シャツの襟元から覗く肌が、微かに汗ばんで、体温を運んでくる。

「さっきの続きだけど……拓也の匂い、まだ残ってるよ。ここに来て、もっと近くで感じる」

 私は素直に囁く。恥ずかしさより、信頼が勝る。彼はグラスを置き、穏やかな目で私を見つめる。ゆっくりと体を寄せ、首筋に顔を近づける。温かな息が、肌に触れる。鼻先で深く吸い込む音が、静かな部屋に響く。

「ん……彩花のここ、甘い。花みたいな優しさと、ワインの深み。体温が混ざって、もっと惹きつけられる」

 彼の声は低く、吐息のように零れる。互いの首筋に顔を埋め、ゆっくりと香りを味わう。私の鼻腔を満たすのは、拓也の肌の温もり。ムスクの柔らかさ、微かな塩味の汗、息の湿り気。生き生きとした男の息吹が、甘く疼きを誘う。彼の髪が頰に触れ、さらさらとした感触が心地よい。

 顔を上げると、視線が絡む。信頼の笑みが、互いの瞳に浮かぶ。自然に、唇が近づく。柔らかく触れ合い、静かに開く。拓也の舌が優しく入り、温かな唾液が混ざり合う。滑らかな感触、甘酸っぱいワインの残り香。唾液の糸が、唇の間で細く引く。ゆっくりと味わうように、舌を絡め、互いの息を分け合う。

「はあ……彩花の味、柔らかくて、溶けそう」

 キスを離すと、彼の囁き。私の唇は濡れ、唾液の余韻が熱く残る。首筋に戻り、再び匂いを吸い込む。互いの顔が、肌に密着する。拓也の息が耳にかかり、湿った温かさが体を震わせる。私は手を彼の背に回し、シャツ越しに筋肉の硬さを確かめる。信頼が、こんな触れ合いを許す。

 ソファの上で、体が寄り添う。ワイングラスがテーブルに置き去りにされ、部屋は二人の息遣いだけに満ちる。拓也の首筋を唇でなぞり、軽く吸う。肌の塩味と匂いが、舌に広がる。彼も私の耳元に鼻を寄せ、深く息を吸う。吐息が首筋を濡らし、唾液の滴が一筋、鎖骨へ滑る。

「もっと……深く、嗅ぎたい。彩花の全部」

 彼の指が、私の腰に触れる。優しく、確かめるように。熱い余韻が、体を包む。私は目を細め、その手に身を委ねる。まだ腰に手が回るのを待ちわびるような、静かな焦がれ。互いの匂いが溶け合い、唾液の甘さが唇に残る。この夜が、どこへ導くのか。心の奥が、優しく疼き続ける……。

(第3話へ続く)