久我涼一

夫の後輩に疼く教師妻の視線(第3話)

この作品は18歳未満の方の閲覧を禁止します。フィクションであり、現実の人物・事件とは一切関係ありません。

## 第3話:部屋の掌、溶ける境界

 返信は、迷いなく送った。『来週、平日の夕方でお願いします。場所はまた駅前で』。その日から、LINEのやり取りは日常の隙間に溶け込んだ。拓也からのメッセージは、いつも学校の相談を口実に、資料の共有やキャリアのヒント。美佐子は授業の合間、職員室の隅で画面を覗き、胸のざわめきを抑えながら返事をする。木曜のカフェ、二度目の再会。同じ窓際の席で、資料を広げた後、視線が絡み、指先がテーブルの上で触れ合う。熱が掌に残り、帰宅後の夫の腕の中でさえ、拓也の息づかいが耳にかかる幻聴を覚えた。

 三度目は金曜の夜。カフェを抜け出し、近くのバーへ移った。平日遅く、カウンターに数人のサラリーマンが酒を傾けるだけ。薄暗い照明の下、拓也の眼鏡がグラスの縁で光る。ウイスキーのロックを回す指が、美佐子の視線を誘う。夫の話題は避け、互いの日常を語る。美佐子はグラスを握り、喉を焼く酒の感触に体を委ねた。別れ際、路地の街灯の下で、肩が触れ合う。拓也の息が首筋に近づき、「次はもっとゆっくり」と囁く。美佐子の太腿が震え、頷くしかなかった。

 そして今夜、水曜の八時。拓也のマンションは駅からタクシーで10分。都心寄りの高層ビル、二十階の部屋。エレベーターの静かな上昇音が、美佐子の鼓動を掻き立てる。夫の健一は今、残業で帰りが遅い。夕食の弁当を渡し、「ゆっくり帰ってきて」と送り出したばかり。LINEで拓也に場所を告げたのは、昨日の夜。『資料を詳しく見たいなら、僕の部屋でどうですか。ワインもありますよ』。断る選択肢は、すでに消えていた。

 ドアが開くと、拓也はシャツの袖を捲った姿で迎えた。眼鏡を外し、柔らかな照明が肩幅の広い体躯を浮かび上がらせる。部屋は広くはないが、整頓され、窓からは夜の街灯が無数に瞬く。黒いソファ、ガラスのテーブルにワインのボトルとグラス二つ。BGMは低く流れるジャズ。空気に微かな革と酒の匂いが混じる。

 「美佐子さん、よく来てくれました。座ってください」

 名前を呼ばれ、先生の敬称が抜け落ちたことに、美佐子の胸が疼く。ソファに腰を下ろすと、拓也がワインを注ぐ。赤い液体がグラスを満たす音が、静寂に響く。乾杯のグラスが触れ合い、軽い振動が指先に伝わる。会話は自然に始まった。学校の悩み、会社のプレッシャー。拓也の声は低く、グラスを傾けるたび、喉仏が微かに動く。美佐子はワインの渋みを味わいながら、彼の視線を追う。眼鏡のない瞳が、柔らかく、しかし鋭く彼女を捉える。

 一時間ほど経ち、ボトルが半分空いた。話題は仕事から離れ、互いの空白に触れる。拓也がソファに体を寄せ、膝が軽く触れ合う。

 「美佐子さん、健一さんの奥さんとして、こんな時間にここにいるんですか」

 夫の名前に、美佐子の指がグラスを握りしめた。十五年の重み、穏やかな日常。なのに、今、目の前の男の熱がそれを薄くする。罪悪感が胸を刺すが、同時に甘い疼きを呼び起こす。拓也の視線が、首筋を滑り、ブラウス越しに胸の膨らみをなぞる。

 「今は……考えたくないわ。ただ、あなたの声が聞きたくて」

 言葉が零れ落ちた。拓也の指が、グラスを置き、ゆっくりと彼女の手を取る。掌の熱が、握手以上の深さで染み込む。湿り気を帯びた感触が、腕を伝い、肩へ。美佐子の体が、無意識に寄り添う。ソファの上で、体躯が重なり合う。拓也の息が耳にかかり、唇が首筋に触れる。柔らかく、試すように。

 「美佐子さん……」

 囁きに、体が震えた。夫の顔が一瞬浮かぶ。優しい笑み、馴染みの感触。それが遠く、霞む。拓也の指が、ブラウスを滑り、背中に回る。ファスナーを下ろす音が、部屋に響く。肌が露わになり、冷たい空気に触れるが、すぐに彼の掌が覆う。温かく、重い。胸の膨らみを優しく包み、頂を指先でなぞる。美佐子の息が乱れ、太腿が擦れ合う。罪悪感が熱を煽る。夫に隠すこの選択の重さが、体を甘く溶かす。

 拓也の唇が、首から鎖骨へ降りる。舌先が肌を湿らせる感触に、美佐子は背を反らした。手がスカートの裾を捲り、ストッキング越しに太腿を撫でる。内側へ、ゆっくりと。指が布地の上から秘部を押す。湿った疼きが、電流のように走る。美佐子の手が、拓也のシャツを掴み、胸板に触れる。硬い筋肉の下で、心臓の鼓動を感じる。互いの熱が、確かめ合う。

 「欲しいの? 美佐子さん」

 拓也の声が、耳元で響く。美佐子は目を閉じ、頷いた。理性の糸が、切れる。指がストッキングを滑らせ、パンティの縁をなぞる。布地をずらし、直接触れる。熱く、濡れた襞を優しく開き、中指が沈む。ゆっくりとした動きに、体が震え、腰が浮く。夫の淡白な触れ方とは違う。この男の指は、確信を持って彼女を探る。頂点の核を擦り、奥を押す。美佐子の息が荒くなり、爪が拓也の背に食い込む。

 快感が波のように膨らむ。罪悪感がそれを増幅し、胸の奥で爆ぜる。夫の後輩、この部屋で。背徳の重さが、甘い痺れを伴う。拓也の唇が口を塞ぎ、舌が絡む。深いキスに、体が溶ける。指の動きが速まり、美佐子は頂点に達した。体が硬直し、熱い波が全身を駆け巡る。喉から漏れる声が、部屋に響く。震えが収まると、拓也の腕に崩れ落ちた。

 彼は静かに指を引き、彼女を抱き寄せる。汗ばんだ肌が重なり、余韻の熱が互いを包む。窓外の街灯が、ぼんやりと揺れる。美佐子の心臓が、まだ速く鳴る。夫への裏切りが、疼きを残すが、それ以上に満たされた空白がある。拓也の指が、髪を撫でる。

 「美佐子さん、綺麗だ」

 言葉に、体が再び反応する。夜はまだ深い。

 翌朝、目覚めたのは七時。拓也の腕の中で、シーツの感触が肌に絡む。窓から差し込む薄い光が、部屋を淡く照らす。昨夜のワイングラスがテーブルに残り、微かな酒の匂い。美佐子の体は、心地よい疲労に包まれている。拓也はまだ眠り、穏やかな寝息を立てる。指先で彼の頰をなぞると、昨夜の熱が蘇る。夫は今頃、出勤の準備か。スマホに通知はない。罪悪感が薄くよぎるが、すぐに拓也の体温がそれを溶かす。

 ベッドから起き上がり、シャツを羽織る。鏡に映る自分は、頰が上気し、唇が腫れたように赤い。四十三歳の体に、こんな余韻が残るなんて。キッチンでコーヒーを淹れ、拓也が目を覚ます。眼鏡をかけ、微笑む。

 「昨夜は……ありがとう、美佐子さん」

 言葉に、胸が熱くなる。朝食を共にし、互いの視線が絡む。出がけ際、ドアで抱き寄せられ、唇が触れる。別れのキスに、体が疼く。

 「また、来て。次はもっと、ゆっくり時間を取ろう」

 拓也の囁きに、美佐子は頷いた。エレベーターで降りる間、胸の奥で新たな約束が膨らむ。夫の待つ家へ向かう足取りは、軽く、熱い。

(約1980文字)