この作品は18歳未満の方の閲覧を禁止します。フィクションであり、現実の人物・事件とは一切関係ありません。
## 第1話:腰痛の初診と絡みつく曲線
腰に鈍い痛みが走るたび、俺はため息をついていた。四十五歳という年齢が、ようやく体に牙を剥き始めている。デスクワーク中心の毎日で、座りっぱなしの姿勢が積み重なり、最近は夜中に目が覚めるほどだ。妻の顔を思い浮かべることもあるが、それすら億劫になる。今日こそ、整形外科へ行ってみるか。ネットで評判のいい、街はずれのクリニックを選んだ。平日午後の空いた時間帯を狙って、車を走らせた。
クリニックの待合室は、意外に静かだった。蛍光灯の柔らかな光が、白い壁に反射し、穏やかな空気を醸し出している。雑誌をパラパラめくる中年男性が一人、窓際でぼんやり外を眺めているだけだ。俺は受付カウンターへ向かった。そこに、彼女がいた。
二十八歳くらいだろうか。黒髪を耳にかけた、穏やかな顔立ちの女性。白いブラウスにネイビーのスカートという、シンプルな制服姿が、清潔感を際立たせている。名札には「美咲」とある。彼女が顔を上げ、柔らかな笑みを浮かべた瞬間、俺の肩の力が少し抜けた。
「初めまして。ご予約のお名前でお間違いないでしょうか?」
声は低めで、優しい響き。目が合うと、ふんわりとした温かさが伝わってくる。日常の疲れが、こんなさりげない笑顔に溶けていくようだった。俺は問診票を渡し、簡単なやり取りを交わす。腰痛の症状を尋ねられ、淡々と答える間も、彼女の視線は穏やかだ。指先がキーボードを叩く音が、静かなリズムを刻む。
「少々お待ちくださいね。お名前、こちらで登録いたしますから」
美咲はそう言い、画面を操作しながら軽く首を傾げた。その仕草が、自然で、どこか親しみやすい。俺は椅子に腰を下ろし、待つことにした。診察室から出てくる患者の足音が、廊下に響く。外は曇天で、雨がぱらつき始めていた。街灯がぼんやり灯り出す時間帯だ。
診察はあっさり終わった。先生はベテランらしく、MRIの必要はないと言い、湿布と軽いリハビリの処方を出す。痛み止めの薬も。特別な異常はないが、姿勢を正せと忠告された。まあ、そんなものだ。問題は会計時だった。
再びカウンターへ。美咲が処方箋を受け取り、画面を確認している。俺は自然と彼女の後ろ姿に目を留めた。カウンターの向こう側で、プリンターから用紙が出てくるのを待つ間、彼女は軽く体を動かした。ネイビーのスカートが、優しく腰のラインに沿って張る。ヒップの自然な曲線が、布地を柔らかく押し上げ、微かな揺れを帯びている。細すぎず、程よい肉付き。座り仕事の俺とは対照的な、しなやかなシルエットだ。
視線が、絡みつくようにそこに留まった。スカートの裾が膝上を少し覆い、ストッキングの光沢が淡く反射する。彼女が体を少し曲げて用紙を取る仕草で、曲線がより鮮明に浮かび上がった。息が、僅かに止まる。こんなありふれた場面で、なぜか胸の奥がざわついた。日常の延長線上にあるはずの瞬間が、急に熱を帯びる。
「会計、こちらになります。次回の予約はいかがでしょうか?」
美咲が振り返り、笑顔で言った。頰に僅かな紅潮はないが、俺の視線に気づいた様子もない。ただ、穏やかな目が俺を捉える。その柔らかな物腰に、さっきのざわつきが倍増した。次回予約? そうだ、それでいい。痛みはまだ続くし、何より、このクリニックに戻る口実が欲しかった。
「ええ、お願いします。二週間後で」
カレンダーを確認し、日時を決める。美咲の指がマウスを滑らせる音が、耳に心地よい。予約票を受け取りながら、俺はもう一度、彼女の笑顔に目を奪われた。カウンターを離れる時、再び後ろ姿をちらりと見た。スカートの曲線が、歩くリズムで優しく揺れる。あの感触を、想像してしまう。布地の下の温もり、柔らかな弾力。
車に戻り、エンジンをかけた。雨がフロントガラスを叩く。ハンドルを握る手が、僅かに汗ばんでいる。家路につく間、頭の中をその曲線が支配していた。妻が夕食を準備している頃だろう。いつもの日常が待っているのに、美咲の後ろ姿が、脳裏に焼き付いて離れない。次回の予約日まで、二週間。胸のざわつきが、甘い疼きに変わり始めていた。あの笑顔に、もう一度会いたい。いや、それ以上の何かが、静かに膨らみ出していた。
(第2話へ続く)
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