芦屋恒一

湯煙に溶ける隣妻の視線(第3話)

この作品は18歳未満の方の閲覧を禁止します。フィクションであり、現実の人物・事件とは一切関係ありません。

## 第3話:露天風呂の湯に溶ける指先の熱

 障子越しの遥の寝息が、夜の静寂に溶け込むように響いていた。規則正しいリズムの中に、微かな乱れが混じる。湯上がりの身体の余熱が、俺の肌を甘く疼かせる。大浴場での湯煙越しの彼女の白い肩、鎖骨の柔らかな曲線。視線が絡んだ一瞬の重み。すべてが現実味を帯び、抑制の糸がわずかに緩む。布団に横たわり、目を閉じても眠りは訪れない。山間の宿は深く静かで、谷風が窓を叩く音だけが時折聞こえる。時計の針は午前一時を回っていた。

 身体の熱を冷ますため、露天風呂へ向かうことにした。深夜の廊下は灯りが薄く、足音が板張りに控えめに吸い込まれる。浴衣の裾をたくし上げ、露天への外階段を降りる。空気はひんやりと澄み、星空の下に湯気が立ち上る。平日深夜の露天は貸し切りのはずだ。石畳の縁にタオルを置き、熱い湯に肩まで沈む。岩風呂の湯は柔らかく、身体の芯まで染み渡る。目を閉じ、深呼吸。隣室の気配、夕食の会話が頭をよぎるが、振り払う。大人なら、理性で抑える。

 湯気の向こうで、水音がした。控えめな、湯に浸かるような音。俺は目を開け、視線を向けた。露天の岩陰から、遥の姿が現れる。浴衣を脱ぎ捨てた裸身、湯に濡れた肌が月明かりに白く浮かぶ。彼女も眠れなかったのか。一瞬の驚きが互いの瞳に宿り、言葉を探す間もなく視線が絡みつく。

「芦屋さん……こんな時間に」

 遥の声は湯気を震わせ、柔らかく低く響く。俺は湯船の端に身体を寄せ、静かに答えた。「ああ、君もか。湯が心地いい夜だな」

 彼女は岩の縁に腰を下ろし、ゆっくり湯に沈む。距離は湯船の幅ほど、だが視線の重みがそれを無くす。湯に濡れた肩がわずかに震え、首筋の滴が鎖骨を伝う。年齢差など感じさせない、互いの肌の熱が水面を甘く波立たせる。言葉は少なく、ただ沈黙が空気を濃くする。遥の瞳が、こちらをまっすぐ見つめる。夕食時の控えめな笑みとは違う、奥底の渇きが浮かぶ。

「夫のこと、話してもいいですか」

 彼女の言葉が、ぽつりと零れ落ちた。俺はうなずき、湯に浮かぶ手を動かさない。「ああ、聞くよ」

 遥は膝を抱え、湯面を見つめた。声は静かだが、抑えていたものが溢れ出す。「結婚して八年。最初は転勤続きでも、週末の再会が楽しみだった。でも、最近は……夫の目は仕事しか映らないんです。家にいても、スマホをいじり、会話は業務報告みたいで。触れ合うこともほとんどなく。寂しいんです、芦屋さん。本当は、女として見てほしいのに」

 その吐露に、俺の胸が疼いた。朝のアパート前のため息、窓越しの視線。すべてが繋がる。俺は自分の現実を淡々と語る。「わかるよ。俺も長年、仕事に追われてきた。家庭を持たず、責任だけ背負って。欲望を抑え、待つ日々だ。君の夫も、同じ重みを背負ってるんだろう。だが、それで君の寂しさが消えるわけじゃない」

 言葉が彼女の心を解すように、遥の肩がわずかに緩む。視線が再び絡み、湯煙の中で甘く溶ける。「芦屋さんなら、わかってくれますね。年齢を重ねて、でもまだ熱いんですか?」

 俺は小さく笑った。「熱いさ。ただ、軽々しく動かないだけだ」

 距離が、自然に縮まる。湯船の中で膝が触れ合い、互いの息が近づく。遥の手が湯面をなぞり、俺の指先に触れる。一瞬の偶然か、意図か。指先が絡み、肌の熱が直接伝わる。柔らかく、湯より熱い感触。彼女の指が震え、俺の掌に絡みつく。視線を落とさず、ゆっくりと撫でるように動かす。遥の息が乱れ、瞳が潤む。「あ……芦屋さん」

 指の動きが、湯の中で深まる。彼女の内腿に触れ、熱い芯を探る。遥の身体がびくりと反応し、湯面が波立つ。抑えていた声が、喉から漏れる。「んっ……そこ、熱い……」俺の指が優しく、しかし確実にその柔肉をなぞる。湿った熱が指先に絡み、彼女の腰が無意識に揺れる。年齢を重ねた俺の経験が、彼女の敏感な点を静かに刺激する。遥の瞳が細められ、唇が半開きに。湯に沈めた胸が上下し、頂が硬く尖るのが水面越しに見える。

「遥……感じてるな」

 囁く声に、彼女は小さくうなずく。「はい……芦屋さんの指、優しくて……あっ、だめ、そこ……」

 指の動きを速め、芯の奥を軽く押す。遥の身体が弓なりに反り、湯が激しく揺れる。喉から甘い吐息が連続し、瞳に涙が浮かぶ。強い震えが彼女を包み、頂点のような波が訪れる。「あぁっ……い、いく……!」声にならない叫びが湯気に溶け、遥の指が俺の腕を強く掴む。身体の痙攣が伝わり、俺の胸に深い疼きが広がる。だが、そこで止める。大人なら、すべてをここで吐き出さない。彼女の余韻を残し、指をゆっくり引き抜く。

 遥の瞳に、合意の光が宿る。湯に濡れた唇が震え、俺を見つめる。「芦屋さん……ありがとう。こんなに、感じたの久しぶり……」

 俺は彼女の手を握り、静かに言った。「まだ夜は長い。部屋に戻ろう」

 湯船から上がり、タオルで身体を拭う。互いの視線が、服を纏う間も絡みつく。露天の階段を上がり、廊下を並んで歩く。遥の部屋の前で、彼女が立ち止まる。「芦屋さん、私の部屋で……続き、しませんか?」

 その誘いに、俺の抑制が頂点に達する。扉を叩く衝動に、手が震える。だが、耐える。「いや、今は待つ。君の心が完全に熟すまで」

 遥は小さく微笑み、瞳に深い約束を宿して扉を開けた。障子の向こうに消える彼女のシルエット。俺は自分の部屋に戻り、布団に横たわる。心臓の鼓動が収まらず、次の瞬間を待つ。夜明けまで、まだ時間がある。

(約2050字)