篠原美琴

夫の同僚の残り香に震える妻(第2話)

この作品は18歳未満の方の閲覧を禁止します。フィクションであり、現実の人物・事件とは一切関係ありません。

## 第2話:寝息の隙間に蘇る残香

 夜がさらに深まり、部屋は静寂に包まれていた。拓也の寝息が、規則正しく響く。美香はベッドに横たわり、目を閉じても、あの匂いが鼻腔に残る。浩一のジャケットから立ち上った、汗の混じった熱気。塩辛く、男らしい。夫の隣で、息を潜める。肌の奥が、じわりと疼き始める。

 シーツの冷たさが、背中に染みる。拓也の体温が、すぐそばに感じられるのに、心は遠くへ飛ぶ。浩一の部屋の薄暗さ。カーテンの隙間から漏れる街灯の光。ジャケットが掛かったフック。視線が絡んだ沈黙。あの瞬間、匂いが濃く広がった。息を吸うたび、体温が混じり、甘く重い。美香の指先が、無意識にシーツを掻く。熱が、下腹部に溜まる。

 拓也の寝息が、一瞬深くなる。美香の胸が、上下に揺れる。目を閉じ、浩一の首筋を思い浮かべる。シャツの襟元から覗く肌。そこに宿る匂い。荒々しく、繊細。夫の穏やかな息とは違う、仕事の疲れを帯びた残り香。鼻腔が、勝手にそれを追い求める。息が浅く、乱れ始める。指が、ゆっくりと腹部へ滑る。布地の上から、かすかな圧。触れていないのに、肌が震える。

 部屋の空気が、重く淀む。外から、遠くの車の音。夜の静けさが、疼きを増幅させる。浩一の視線が、唇に落ちた瞬間を思い出す。瞳の揺らぎ。沈黙の膜。匂いが、部屋全体を満たしたようだった。美香の喉が、乾く。指先が、わずかに動く。下腹部の熱が、波のように広がる。抑えきれない。息が、途切れ途切れに。

 拓也の寝息が、すぐ耳元で続く。夫の存在が、空白を際立たせる。浩一の匂いが、脳裏に蘇る。ジャケットを手に取った仕草。背中に感じた視線。ドアが閉まる直前の瞳。すべてが、熱く絡みつく。美香の腰が、微かに浮く。指の動きが、無意識に深まる。布地の摩擦。熱が、頂点へ向かう予感。なのに、決して触れきれない距離。心と肌が、震えるだけ。

 息が、熱く吐き出される。鼻腔に、幻の匂い。汗の塩気。男の体温。夫の隣で、こんなにも熱くなるなんて。罪の意識が、逆に疼きを煽る。指先が、止まらない。シーツを握る手が、白くなる。沈黙の中で、体が甘く溶ける。浩一の残り香が、すべてを塗り替える。夜更けのベッドで、空白に熱が溜まる。抑えきれない、余韻の震え。

 どれほどの時間が過ぎたか。美香の息が、ようやく整う。拓也の寝息は変わらず、穏やか。彼女は天井を見つめ、指を腹部から離す。肌の熱が、引かない。浩一の匂いが、まだ鼻腔にこびりつく。目を閉じると、再び視線が絡む。離せない疼き。夜の静寂が、それを抱え込む。

 朝が来る。平日の朝らしい、灰色の光がカーテンを透かす。拓也が先に起き、キッチンでコーヒーを淹れる音。美香はベッドから身を起こし、昨夜の余韻を振り払うように着替える。鏡に映る頰が、わずかに上気している。鼻腔に、かすかな残り香。幻か、現か。

 リビングへ降りると、拓也がスマホを眺めている。いつもの朝の風景。穏やかな笑顔。

「おはよう。浩一からメール来てたよ。昨日の書類の件で、追加の確認だって」

 美香の息が、一瞬止まる。浩一の名前。指先が、無意識に下腹部へと向かう。昨夜の熱が、再燃する。拓也は気づかず、コーヒーを注ぐ。

「返事しとくよ。仕事の話だから」

 美香は頷き、テーブルに座る。スマホの画面を覗き込む拓也の横で、心臓が速まる。浩一のメール。昨日の続き。あの部屋の記憶。ジャケットの匂い。視線の沈黙。すべてが、鮮やかに蘇る。鼻腔に、熱が宿る。肌の奥が、再び疼き始める。夫の声が遠く、浩一の残り香が近づく。朝の光の中で、抑えきれない空白の熱。

 拓也がスマホを置く。その瞬間、美香の視線が画面に留まる。浩一の名前が、そこに。息が浅くなる。次に、何が起こるのか。心が、わずかに傾く。疼きの予感に、肌が震える。

(第3話へ続く)