神崎結維

男たちの揺らぐ境界熱(第1話)

この作品は18歳未満の方の閲覧を禁止します。フィクションであり、現実の人物・事件とは一切関係ありません。

## 第1話:視線の疼き、秘めた膨らみ

 平日の夜、オフィスの窓辺に差し込む街灯の光が、拓也のデスクを淡く照らしていた。28歳の拓也は、いつものように残業の帳簿を睨みながら、ふと息を吐く。空調の低い唸りと、遠くのエレベーターの音だけが、静かなフロアに響く。誰もいない時間帯だ。同期たちはとっくに帰宅し、拓也もあと少しで切り上げようと思っていた矢先だった。

 新任の上司、怜が現れたのは、そんな平凡な夜の9時過ぎ。30歳の怜は、部署の異動でこのポジションに就いたばかり。スーツの裾を軽く払いながら、怜は拓也のデスクに近づいてくる。その足音が、拓也の耳に不思議なリズムを刻む。怜の視線は、いつもより鋭く、拓也の顔を捉える前に、わずかに下——拓也の股間に一瞬、留まった気がした。

「拓也君、まだ残ってるのか。遅くまでよくやるよ」

 怜の声は低く、穏やかだが、どこか探るような響きがある。拓也は慌てて帳簿を閉じ、椅子を引いて立ち上がる。怜とはまだ数日しか顔を合わせていない。入社以来の先輩ではない、血のつながりもない、ただの上司と部下。なのに、怜の存在は拓也の肌に、奇妙なざわめきを呼び起こす。

「いえ、怜さん。ちょっと確認作業が残ってて。もうすぐ終わります」

 拓也は平静を装うが、心臓の鼓動が速まる。怜の視線が、再び拓也の体を這うように移動する。スーツの下、拓也の秘めたふたなり部分が、わずかに反応を始める。普段は抑え込んでいるその膨らみが、怜の気配に敏感に疼き出す。熱い脈動が、下腹部にじわりと広がる。拓也は無意識にデスクの縁を握りしめ、視線を逸らす。

 怜はデスクの端に腰をかけ、腕を組む。その仕草で、シャツの袖口から覗く腕の筋が、拓也の目を引く。怜の体躯は細身だが、鍛えられたような張りがある。拓也はそんな怜の輪郭を、ぼんやりと眺めてしまう。怜は微笑み、業務連絡の書類を差し出す。

「これ、明日のミーティングの資料。君の担当部分、確認してくれたか?」

 拓也は書類を受け取り、ページをめくる。怜の指先が、拓也の手に触れそうで触れない距離。空気が、微かに重くなる。怜の視線は書類ではなく、拓也の首筋に注がれている。拓也の喉が、乾く。

「はい、怜さん。数字の整合性は取れてます。ただ、ここ——売上予測のところで、少し調整が必要かも」

 拓也の声が、わずかに上ずる。怜は身を寄せ、書類を覗き込む。その息が、拓也の耳にかかる。怜の体温が、近い。拓也のふたなり体は、さらに疼きを増す。スラックスの生地の下で、抑えきれない膨らみが、熱く脈打つ。怜は気づいているのか? その視線が、拓也の腰に絡みつくように感じる。

「ふむ……確かに。君の目、鋭いな。僕が見落としてたよ」

 怜の言葉は褒め言葉だが、どこか曖昧だ。本心か、ただの業務トークか。拓也は怜の瞳を覗き込むが、そこに映るのは、ぼやけた熱だけ。怜の唇が、わずかに弧を描く。オフィスの静寂が、二人の距離を際立たせる。街灯の光が、怜の頬を影で縁取り、拓也の胸をざわつかせる。

 会話は業務から、徐々にずれていく。怜はコーヒーのマグを手に取り、拓也のデスク脇の椅子に腰を下ろす。膝が触れそうで触れない。怜の視線が、拓也の胸元を滑る。

「最近、疲れてるんじゃないか? 君の顔色、ちょっと悪いよ」

 怜の言葉に、拓也は首を振る。実際、怜の登場以来、拓也の体は落ち着かない。夜毎、怜の視線を思い浮かべ、ふたなり部分を手で抑えながら眠れぬ時間を過ごす。怜は知らないはずだ。拓也のこの体を、この秘密を。

「いえ、大丈夫です。怜さんが来てから、仕事が面白くなってきましたよ」

 拓也の返事は、無意識に甘い響きを帯びる。怜の目が、細くなる。怜はマグを置き、拓也の肩に軽く手を置く。その感触が、電流のように拓也の体を走る。ふたなり体の疼きが、頂点に近づく。スラックスの前が、わずかに持ち上がるのを、拓也は必死に隠す。

「そうか。僕も、君みたいな部下がいてよかったと思ってる」

 怜の声が、低く囁くようになる。手は肩から離れず、親指が拓也の鎖骨をなぞるような動き。合意の境界か、ただの気まぐれか。拓也の息が乱れ、視線が絡み合う。二人の間で、空気が熱を帯びる。怜の瞳に、拓也の映る姿が揺らぐ。怜は本気か、それとも遊びか。拓也自身も、自分のこの疼きが、何を求めているのかわからない。

 怜はようやく手を離し、立ち上がる。時計を見やり、ため息をつく。

「もう遅いな。明日の朝、イレギュラー対応の件で、ちょっと話があるんだけど……」

 怜の言葉が、途切れる。視線が、再び拓也の下半身に落ちる。拓也は慌ててデスクに身を寄せ、隠す。怜は気づいたように微笑むが、何も言わない。その沈黙が、拓也の体をさらに熱くする。

「今夜、話さないか。僕の部屋で、ゆっくり」

 怜の誘いが、静かに落ちる。オフィスの空気が、張り詰めるほどに緊張する。拓也の胸が、激しくざわつく。怜の視線は、拓也のすべてを飲み込むように深い。行くべきか、いや、この疼きを抑えられるか。怜の本心は、どこにあるのか。

 拓也は、言葉を失ったまま、怜の背中を見送る。ドアが閉まる音が響き、オフィスに静寂が戻る。だが、拓也の体は、疼きを抑えきれず、熱く震えていた。

(第2話へ続く)

━━━━━━━━━━━━━━━━━━