久我涼一

白衣の下のパートランジェリー(第1話)

この作品は18歳未満の方の閲覧を禁止します。フィクションであり、現実の人物・事件とは一切関係ありません。

## 第1話:白衣の下の密かな布地

 平日の夕暮れ、クリニックの待合室は静かだった。外の街灯がぼんやりと灯り始め、窓ガラスに雨粒がぽつぽつと落ちる音が、室内の空気を重く湿らせていた。38歳のパート看護師、美佐子は白衣の袖をまくりながら、カルテを整理していた。夫と結婚して15年、セックスレスになってもう10年近くになる。毎日のように感じる身体の渇きを、彼女は密かに紛らわせていた。

 白衣の下に、高級ランジェリーを纏うのだ。シルクの滑らかな感触が肌に寄り添い、ブラのレースが胸の膨らみを優しく支える。今日のは、淡いピンクのセット。夫の知らないところで、通販サイトからこっそり注文したものだ。診察室で患者の体温を測る時、ふと布地が擦れる感触に、胸の奥が甘く疼く。誰も知らない、この小さな秘密が、美佐子の日常を支えていた。パートの仕事は午後からで、帰宅は夜遅く。夫はサラリーマンで、互いに言葉少なに夕食を済ませ、別々のベッドで眠る。触れ合うこともなく、ただ時間が過ぎるだけの日々。

 診察室のドアがノックされ、美佐子は姿勢を正した。「どうぞ」。入ってきたのは、45歳の男性患者、健一だった。カルテによると、腰痛の再診。スーツ姿で、穏やかな目元が印象的な男だ。身長は180センチほど、肩幅が広く、年齢を感じさせない引き締まった体躯。鞄を床に置き、ベッドに腰掛ける。

「こんにちは、美佐子さん。今日もよろしく」。

 健一の声は低く落ち着いていた。美佐子は微笑みながら、聴診器を準備する。「お疲れのようですね。腰の具合はどうですか?」。彼は軽く頷き、シャツの裾を捲り上げた。腰のラインが露わになり、美佐子は手を添えて触診を始める。筋肉の張りが強く、指先に硬い感触が伝わる。健一は小さく息を吐き、「デスクワークが長くてね。専門店をやってるから、立ち仕事も増えて」。

 その時だった。健一の鞄が傾き、中から一冊のカタログが滑り落ちた。床に広がったページには、繊細なレースのランジェリーが並んでいる。高級感あふれる写真、シルクの光沢、ボディラインを強調したデザイン。美佐子の視線が釘付けになる。慌てて拾い上げ、健一に差し出す。「す、すみません。これ……」。

 健一は苦笑し、受け取った。「ああ、これはうちの新作カタログ。俺の店の商品だよ。ランジェリー専門店をやってるんだ。女性ものの下着を扱って、25年になるかな」。

 美佐子の心臓が、どきりと鳴った。専門店オーナー。鞄から零れ落ちたそのカタログは、彼女の秘密を映す鏡のようだった。白衣の下で、今まさに纏っている布地と同じような、官能的なレースのページ。健一の視線が、穏やかだがどこか深く、彼女の顔を捉える。「美佐子さんみたいな人に、ぴったり合うものを選んでるよ。日常で、ちょっとした贅沢を」。

 その言葉に、美佐子の頰が熱くなった。診察を続けながら、腰に手を当てる指先が、わずかに震える。健一の肌は温かく、筋肉の下に潜む力強さが伝わってくる。白衣の下、ランジェリーのストラップが肩に食い込み、胸が上下に揺れる。夫の顔が一瞬脳裏をよぎるが、すぐに霧散した。10年もの空白が、身体の芯を疼かせる。この男の視線は、ただ穏やかで、しかし確かな熱を帯びていた。日常の抑圧が、ゆっくりと、だが確実に揺らぎ始める。

 診察を終え、健一は立ち上がった。「また来週、再診でお願いします。美佐子さんの手、気持ちいいよ。腰が少し楽になった」。彼の笑みが、柔らかく残る。美佐子はカルテに記入しながら、頷く。「お大事に。無理なさらないで」。

 クリニックを出たのは、夜の帳が下りる頃。美佐子は自家用車を走らせ、マンションに帰宅した。夫はまだ帰っていない。リビングの明かりを付け、寝室へ向かう。鏡台の前に立ち、白衣をゆっくり脱いだ。そこに現れるのは、淡いピンクのランジェリー姿。ブラのカップが胸を優しく包み、パンティのレースが腰骨を縁取る。指を這わせると、シルクの冷たい滑りが、肌を震わせた。

 健一の顔が、浮かぶ。あの穏やかな視線、カタログのページ。もし彼が、この布地を触ったら。指先でレースをなぞり、肌に直接触れたら。美佐子は鏡に映る自分の姿を見つめ、息を乱した。胸の頂が固くなり、パンティの布地が湿り気を帯びる。夫のいないベッドで、指を滑らせ、次回の診察を想像する。腰に触れる彼の手が、もっと深く、布地越しに……。

 身体の熱が、抑えきれず広がる。この疼きは、日常の延長線上で生まれたもの。パートの看護師として、妻として、背負う責任の重さが、かえって衝動を甘くする。次に彼が来たら、何が起こるのか。鏡の中の自分が、かすかに微笑んだ。

(第2話へ続く)

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