三条由真

女上司オフィス絶頂主導権逆転(第1話)

この作品は18歳未満の方の閲覧を禁止します。フィクションであり、現実の人物・事件とは一切関係ありません。

## 第1話:厳しい視線と零れたコーヒー

オフィスの照明が薄暗く、残業の空気を重く淀ませていた。28歳の浩は、デスクに山積みの資料を睨みつけながら、キーボードを叩く手を速めていた。今日も上司の指示で遅くまで残っている。35歳のキャリアウーマン、美咲。彼女の存在は、部署全体を支配するような圧を放っていた。

美咲は入社10年目のエースで、浩の上司として3年になる。スーツ姿が完璧に似合い、黒髪をきっちりまとめ、鋭い目つきで部下を指導する姿は「氷の女王」と陰で囁かれるほど。浩は彼女の部下として、いつもその視線に晒されていた。厳しい言葉、完璧を求める態度。だが、浩はそれを嫌いではなかった。むしろ、その圧の下で自分の限界を試されるような興奮を、密かに感じていた。

「浩くん、そこ間違ってるわよ。もう一度確認して」

美咲の声が背後から響き、浩の肩がびくりと震えた。振り返ると、彼女がすぐそばに立っていた。距離が近い。彼女の香水の匂いが、かすかに甘く鼻をくすぐる。浩は慌てて資料を直そうとするが、手が震えてしまう。

「す、すみません。すぐ直します」

美咲はため息をつき、浩の隣に腰を下ろした。デスクの狭いスペースで、二人の肩が触れそうになる。彼女は資料を覗き込み、赤ペンで修正点を記入し始める。その手つきは素早く、確か。浩は彼女の横顔を見つめ、息を潜めた。美咲の唇がわずかに動くたび、浩の胸がざわつく。彼女の視線は資料に固定されているのに、浩にはその視線が自分を射抜いているように感じられた。

「ここよ。数字が一つずれている。注意力散漫ね」

彼女の指が浩の手の甲に触れた。資料を指し示すはずが、自然と手が重なる。美咲の指先は細く、温かかった。浩の肌にその体温がじんわりと伝わり、心臓の鼓動が速まる。彼女は気づいていないのか、それとも意図的に? 浩は手を引こうとしたが、美咲の指がわずかに絡むように動き、資料を一緒に押さえた。

「こう直すの。分かった?」

声は低く、息遣いが浩の耳にかかる。美咲の吐息が首筋に触れ、浩の体が熱くなった。彼女の視線がようやく浩に向き、目が合う。その瞳は深く、浩を引き込むような力があった。浩はごくりと唾を飲み、頷くしかなかった。力関係は明らかだ。美咲が上、浩が下。オフィスの静寂の中で、二人の体温だけが密やかに混じり合う。

美咲は満足げに頷き、立ち上がろうとした。その時、彼女のデスクに置かれたコーヒーカップに肘が当たり、黒い液体が零れ落ちた。カップが傾き、美咲のスカートに飛び散る。

「あっ……!」

美咲の声が上ずる。完璧な彼女の、予想外のドジ。普段の凛とした姿が一瞬崩れ、頰が赤らんだ。浩は咄嗟にハンカチを取り出し、美咲のスカートに手を伸ばした。

「大丈夫ですか、美咲さん。拭きますよ」

浩の手が彼女の太もも近くに触れる。布地越しに伝わる柔らかな感触。美咲は慌てて体を引こうとするが、浩の動きが素早い。ハンカチで優しく拭き取りながら、二人の視線が再び絡み合う。今度は浩の目が少し上から彼女を見下ろす形になっていた。美咲の頰の赤みが濃くなり、息がわずかに乱れている。

「ありがとう……浩くん」

彼女の声はいつもより柔らかく、視線に熱が宿っていた。零れたコーヒーの匂いが二人の間に漂い、オフィスの空気が一変する。浩はハンカチを握りしめ、心の中で思う。この瞬間、主導権が少し、揺らいだ気がした。美咲の瞳が、浩を追うように熱く輝き、残業の夜はまだ終わらない予感を残していた。

(第1話 終わり)